終わりなんてこなければいいのに―
『君と綴るうたかた』5巻の感想・考察に加え、特典について触れていきます。
『君と綴るうたかた』5巻における強み
『きみつづ』5巻は「生きること」について掘り下げた1冊だと思う。
この辺は人それぞれ異なる部分だけど、自分は「生きる」という部分が印象に残ったかな。もっと言えば、「過去と向き合い、現在(いま)を生きる」。雫やるりが過去の出来事を向き合い、現在をどう生きるか・どのような未来にしていくかが作品における妙だと捉えている。
1人1人が限りある今を精一杯生きている姿が作品に厚みを与えてくれる。夏織のために小説を書き続ける雫・雫やるり、栞のためにベッドの上で戦い続ける夏織といった具合に。目の前の誰かのためにできる限りのことを尽くそうとする姿は本当に尊く、美しいなと思うばかりだ。
時間が限られているからこそ、雫達の活躍に目が離せない。
22話と23話の糸電話が描かれた扉絵や雫と夏織が電話でやり取りするシーンを見ていると、電話越しの向こうに愛する人が生きているということを実感していたのかなと感じたりした。21~25話の扉絵の中だと、ニコイチになっている22話と23話が好き。
『君と綴るうたかた』5巻に描かれていた対立・葛藤・変化
『きみつづ』に限った話ではないけど、物語を追っていく上でどのような対立・葛藤があるか。そして、対立と葛藤による変化は一体何かが大事だと解釈している。物語は対立・葛藤・変化を繰り返し、エンディングにたどり着く。
漫画に限らず、アニメやゲーム、ドラマ、小説などを楽しむ際、起承転結や序破急がどうなっているかを考えている方も多いのかなと。
『きみつづ』5巻では、いくつもの対立・葛藤・変化が描かれていた。
- 雫と栞
- 雫とるり
- 雫と夏織
夏織を想う雫と栞が対話を重ね、距離を縮める様子は見応え十分。会話を見ていて、2人とも夏織のことが大切なんだなというのが十分分かる。夏織のことで苦しむ栞を正面から受け止める雫。そして、雫に小説を託すだけでなく、病院で自らの苦しみをさらけ出す栞を見ていると、変化や成長を感じさせる。
るりの葛藤も『きみつづ』5巻における骨組みのひとつだ。雫の変化に戸惑う姿。そして、夏織のためにできる限りのことをしたいという想いと無理をしないで欲しいという想いが交錯し、るりを悩ませる。描き下ろしエピソードにおいて、るりの変化が見られるのもストロングポイントのひとつに挙げられる。
果たして、るりは変化した雫にどう接していくのか。
もちろん、雫と夏織の対立も外せない。作家と読者の関係性というのはどこかリアルに感じてしまう。クリエイターの多くは自分が生み出した創作物を手にした人達がどのような反応を示すのか気になって仕方がないという印象を受ける。Twitterとかブログを開設していると尚更、そう感じている。SNSが身近になっているからこそ、距離感や礼節、言葉のかけ方などに悩まされる時が本当に多い。
雫の小説を小説サイトに載せる・載せないのやり取りは思わず息を呑んだ。
2人の物語を終わらせたくないという雫と物語の完結を望む夏織というのも一種の対立なのかなというのが自分の考え。この辺は人によっては違うと感じる方も多いと思いますが。
完結させてしまうと、夏織の下に来る理由が無くなってしまうのではないという不安。最も、完結させたからと言って、夏織の下に来る理由が無くなるわけでない。25話で夏織が小説が書けていなくても会いに来て欲しいと雫に電話したのがそう感じた理由だ。
小説について雫が葛藤していく姿も見どころのひとつ。完結させたいという想いと完結させたくないという想いが雫の中で対立しているのかなと思ったり。
本・写真・お揃いの物の共通点
作中に触れられていた小説ないし本・写真・ペアリングなどのお揃い物に何か共通点はないか思案することに。
思案していく中、生きた証というのが頭に浮かんだ。夏織が生きているということを小説や写真、お揃いの物に残そうとしているのではないかと捉えている。
写真と言えば、ゲーマーズ特典が印象的だ。
芹のグッズは今まで発売されなかったので、どこか新鮮に映る。桜を背景にスマホを構える芹の横顔は美しく、カッコいい。キットカットのCMを感じさせる。るりが愛用しているカメラで撮ったのかな?
芹を映した写真が本編でも見られるのかどうか気になったりする。4巻のゲーマーズ特典に用いられたイラストも本編に登場していた。
写真は現在(いま)を残す方法のひとつ。過去を振り返ることのできる数少ない方法のひとつだ。写真というアイテムからも「生きる」という言葉が頭によぎる。その人が生きていたというのを感じるため、その人が生きていたという証を残すため、夏織は雫や栞と写真を撮ることを望んだのかなと。
ペアリングも恐らく…
メロンブックスの有償特典として付いてきたアクリルスタンド
メロンブックスの有償特典として、アクリルスタンドが付いてきた。雫と夏織が窓の外を見つめる様子が描かれている。窓に飾ってあるてるてる坊主が可愛い。虹が綺麗だなと感じていたのかな。
止まない雨はないと感じさせつつ、雫と夏織の可愛らしい姿が見られる良いアクリルスタンドだ。
夏織は窓の向こうに広がるさまざまな場所を雫と一緒に行けたらなと感じていたのかどうか気になるところ。湘南の海だけでなく、鎌倉や横浜中華街、江ノ島、箱根といった具合に神奈川だけでも魅力的な場所がいくつも存在する。病院や神奈川を飛び出すともっと…
『ささやくように恋を唄う』7巻のアクリルスタンドと並べてみることに。
サイズは同じですね。
『きみつづ』4巻のまんが王有償特典のアクリルスタンドと並べてみました。
『きみつづ』5巻のアクリルスタンドの方が大きめかなと。
幕が下りた瞬間・刻々と近づくことで生じる寂しさ
前述の部分でも少し触れたけど、小説の完結について悩む雫と小説を完結させることを望む夏織の姿を見ていて思うところが。
どの物語においても、このまま続いてくれたらなと感じることが往々にしてある。どんなフィナーレが待っているか気になるという気持ちはあるけど、終わって欲しくないという相反する想いも同時に存在しており、自分を苦しめる。
素敵な物語がもっと続いて欲しいと感じた経験がないですか?
私の場合、小さい頃にとあるスーパー戦隊が最終回を迎え、大号泣したことがある。その時は両親を酷く困らせていたなと…
物語が完結するというのはファンそして作者にとって大きな出来事だ。雫も幕を下ろす覚悟がまだできていないないし幕を下ろしたくないという気持ちでいっぱいだったのかなと感じた。
生きている間に物語の完結を見られないというのは寂しさみたいなものを感じてしまう。まるで自分が取り残されたと言えば良いのか。
取り残されるのが嫌だからこそ、イベントとかにも参加するところがある。樫風先生達が参加していたコミティアに参加したのはそういった部分が大きい。
未完のまま夏織がこの世を去った後、物語を完結したとしたら、夏織は寂しさや取り残されたという気持ちを味わってしまうのではないだろうか。
『きみつづ』5巻のあとがきや『ロンリーガールに逆らえない』の完結などで立ち往生している自分がここにいる。物語の完結というのはそれ程までに大きな影響を与えてしまう。
物語の完結というのはどれだけ重いことか。高い熱量をかけていればいる程、喪失感や寂しさというものが一気に襲い掛かってくる。カウントダウンが刻々と近づくたびに時間が止まってくれたらなと感じなくもない。
雫や夏織とのやり取りを通して、物語を完結させることについて掘り下げた1冊に仕上がっている部分も強みと言えるだろう。
表紙と帯について
ゆあま先生が描く渾身の『きみつづ』5巻の表紙。
その手を離せば消えてしまいそうな儚さを感じさせる表紙に仕上がっているんじゃないかと思う。2人に降り注いだであろう水滴は涙のようだ。25話で雫と夏織が抱き合うシーンを彷彿させる。
雫と夏織の周りには、無数のルーズリーフが。雫が小説の続きを書こうとしたものの、続きが浮かばない・完結させたくないという想いからグシャグシャにしたのだろう。
続きが書けないと苦しむ雫を優しく包み込む夏織が優しくも儚い。
肉体は限界に近付いている状態で尚、雫を優しく強く抱きしめる夏織は美しいと感じるばかり。芯が強いからこそ、雫も夏織に弱さを自分の全てをさらけ出すことができるのだと思う。
帯に書かれている一文は雫の心の叫び。
裏はこんな感じ。
雫の中で夏織が大きくなっているのがよく分かる。
作品の面白さを拡張するリーフレット
メロンブックスとアニメイトの特典はリーフレット。2枚とも揃えるという方が多いのではないだろうか?
アニメイトの方は浴衣を着た雫が表紙。表紙に関する裏話が収録されていた。
メロンブックスの方は浴衣を着た夏織が表紙。素敵なおまけ漫画が2本収録されている。2本目が個人的にお気に入りだ。静のおさがりの服を着こなす雫は夏織を大満足させることは間違いない。
並べてみるとこんな感じ。
雫の髪を夏織が触る構図が尊い…
救世主という言葉
夏織がるりに雫は自分にとって救世主と言っていたけど、雫は夏織に一体何をしたのだろうか。
小学校時代に憧れていたと触れていたけど、小学校時代に何かあったのではないかと捉えている。小学校時代に雫が行った何かが夏織を動かしているのだと思う。
救世主という言葉がどうも引っ掛かる。
最後に
『きみつづ』5巻は雫と夏織の対話・夏織とるりの対話・雫と夏織の対話を収めた1冊。「生きる」ということについて掘り下げられており、読み応え十分な1冊に仕上がっています。
雫と夏織の一夏、一体どのような結末が待っているのか。最後まで目が離せない。
この記事へのコメント