1つ!勇者たる者、人々の模範たれ!!!
1つ!勇者たる者、人類の希望たれ!!!
1つ!勇者たる者、困難に屈するなかれ!!!
とある異世界を舞台に勇者を志す少女達の学園ファンタジーを描いた『勇者になりたい少女〈ボク〉と、勇者になるべき彼女〈キミ〉』。
理想と現実の間で少女達は困難に立ち向かい、時に葛藤していく。
今回は『ボクキミ』の感想を紹介していこうと思う。
基本情報
タイトル | 『勇者になりたい少女〈ボク〉と、勇者になるべき彼女〈キミ〉』 |
---|---|
原作 | いのり。(@Inori_ILTV) |
イラスト | あかもく(@akmkmk3) |
出版社 | KADOKAWA |
発売日 | 2022年11月10日 |
ISBN-10 | 4049152746 |
ISBN-13 | 978-4049152746 |
サイズ | 文庫(10.7x1.3x15cm) |
『勇者になりたい少女〈ボク〉と、勇者になるべき彼女〈キミ〉』の内容
『勇者になりたい少女〈ボク〉と、勇者になるべき彼女〈キミ〉』は人と魔族の戦争が終結した世界を舞台に勇者を志すルチカが同じく勇者を志すレオニーと親密になろうとする様子を描いた百合ラノベ。
果たして、ルチカとレオニーは勇者になることができるのか。
勇者学校に集う少女達の学園生活が今、幕を開ける!
『勇者になりたい少女〈ボク〉と、勇者になるべき彼女〈キミ〉』の感想
キャラクター1人1人の葛藤や才能、志などにフォーカスが当てられていて、ルチカ達の人間味が増していたのが印象に残る。
作者は『私の推しは悪役令嬢。』のいのり。先生。
『ボクキミ』を手にした方の多くが『わた推し』も読んでいるのではないだろうか?人によっては『ボクキミ』でいのり。先生を知った方もいるかもしれない。
『ボクキミ』のテーマは「~したい」と「~するべき」。理想と義務の対立といったところだろうか。希望と責任といった言葉も頭に浮かぶ。話を読み進めていくと、『わた推し』のテーマでもある困難に打ち勝つという題材も反映されているように感じた。
ラノベニュースオンラインに掲載されていたいのり。先生のインタビューにおいて、ディストピアめいたものといった言葉が記載されていたのが印象に残る。実際、話を読み進めていくと、たしかにディストピアだなと思う面が多い。
戦争が終わった後も続く人と魔族の対立。それに伴う差別。ギアや学校の校則、勇者という肩書きに支配された学校は人や魔族をガチガチに拘束するのに十分過ぎる。
勇者が魔王を打ち倒し、世界が平和になったのかもしれないが、人々の心の中は厳密な意味では平和でないのかもしれない。
アイテムや技術で支配されたディストピアと聞くと、記憶を題材にした『カイバ』がなぜか頭に浮かんだ。あちらは記憶の保存や肉体の乗り換えるための技術が確立された世界が描かれていましたね。技術の革新で生活が豊かになる反面、考えなくてはいけない部分も多いようだ。
ギアが現実世界におけるAIのようなものだと考えたら、AIに支配された世界と捉えることもできなくもない。
よくよく考えたら、革命が起きる前の『わた推し』の世界もディストピアめいた雰囲気が流れていたような感じがした。あちらは身分と貧富の差、国と国の対立などから来るものだったな。
車に例えると、トヨタのAE86とマツダのロードスターのような感じ。分かりにくいと思った方には申し訳ないですね。『ボクキミ』と『わた推し』の根幹となる部分は限りなく接近しているのではないかと解釈している。
主人公のルチカはオイオイと感じる部分が無くもないが、レオニーやノールにパワーを与え、ダニタを救い出していた。『ボクキミ』における求心力といったところだろうか。どんな時も理想を実現させるために決してあきらめず、周囲にパワーを与える。こういった部分は勇者に求められるものの1つなのかもしれない。
『わた推し』のレイに比べると、ルチカは周囲を照らす太陽といった印象が強い。レイは不器用だけど、ここぞという時は優しく支える存在かな。2人とも理想を実現させるために諦めない心を持ち、足掻き続けるところはよく似ている。
各キャラクターの視点で話が進められていくので、ルチカ達が一体どのような葛藤を抱えているか・どのような行動をしているのかなどを分かりやすくしているのもポイント。
『わた推し』の場合、『平民のくせに生意気な!』でクレア視点で話を進めていましたね。
この辺を踏まえたら、『わた推し』でのノウハウが『ボクキミ』に反映されているのかなと。
帯にクレアがいるし…
ルチカの優しさや明るさによって、レオニーの表情が柔らかくなるところやルチカに呼応してノールやダニタが変化していくところも『ボクキミ』の見どころだと思う。ダニタに至ってはルチカやレオニーに刺々しい感情を抱いていたが、クライマックスの時になるとどこか穏やかな表情を浮かべていた。
『わた推し』でも感じていたのですが、1人1人の存在感を強め、それぞれに輝きを持たせているといった感覚を覚える。そういった演出はいのり。先生のスタイルだと捉えている。だからこそ、『わた推し』のキャラクターに根強いファンが着いたりするのだろう。海外勢の熱に押されることが多い。
後、理想や情熱が時に才能や絶望を上回る時があることも表現したかったのかなと読んでいく中で感じた。最低だと思う現実世界の中に希望があると言えば良いのか。
誰にも負けないくらいの理想と情熱が全てを変える。
勇者を志すルチカはレオニーだけでなく、ノールもダニタすら優しく包み込む。
RPGに登場する勇者の如く、ルチカがパーティーを結成していくようだった。ルチカとレオニーのパーティーがどのように大きくなっていくかも今後の見どころなのかもしれん。
『わた推し』のDNAを感じさせる百合ラノベだと思う。
そういえば、鶏肉に関する描写を見ていると、いのり。先生がXで投稿している内容などを想起させる。『わた推し』でも鶏肉を使った料理に関する描写がありましたね。
『勇者になりたい少女〈ボク〉と、勇者になるべき彼女〈キミ〉』と『私の推しは悪役令嬢。』の比較
『ボクキミ』と『わた推し』を比較してみることに。
勇者になりたい少女〈ボク〉と、勇者になるべき彼女〈キミ〉 | 私の推しは悪役令嬢。 | |
---|---|---|
主人公 | ルチカ・レオニー | レイ・クレア |
主人公の種族または身分 | ルチカ:魔族 レオニー:人間 | レイ:平民 クレア:貴族 |
テーマ | 「~したい」と「~するべき」 | 困難に打ち勝つ |
作中に登場するアイテム | ギア | 杖・魔道具 |
世界観 | 人と魔族の戦争が終結した世界 | 乙女ゲーム「Revolution」の世界(貴族や王家が力を持つ世界) |
問われる能力 | 勇者の才能 | 魔法力 |
魔法の属性 | 火・水・風・土・光・闇 | 火・水・風・土 |
学園内での成績を決める要素 | 座学 実技 | 教養科目 礼法 魔法力 |
作中に登場した日本の料理 | たこ焼き | 牛丼 味噌汁 大福 |
能力や才能が求められる世界観というのは共通している。種族や身分に伴う対立や差別があるのも2作品の共通点といったところだろうか。
アリザが生徒達のことを番号で呼んでいた姿は能力至上主義ここにありといった感じだ。
西洋風の世界の中に日本文化が落とし込まれているのも印象的。
魔法に関しては、『ボクキミ』では光と闇の属性が追加されている。回復魔法は『わた推し』だと水属性だったのに対し、『ボクキミ』では光属性。
闇属性は攻撃に用いられる。光属性と闇属性は希少なのだとか。
『ボクキミ』では、スクロールと呼ばれる護符のようなアイテムが登場している。『わた推し』に登場した魔法を込めたミサンガに相当する。
スクロールは紙に魔法陣を刻んだ物。ミサンガ同様、魔法が1度だけ発動する。スクロールは巻物という意味を持つ。忍者が巻物に忍術に関するノウハウを書き記す様子が思い浮かぶ。
『わた推し』では、レイ達が礼法があるかどうか求められている。『ボクキミ』においても、勇者を志す人間には礼節の有無が求められているのかもしれない。
こうして比較してみると、微妙に異なる部分もある。
みかみてれん先生の『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』と『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ! ※ムリじゃなかった!?』も共通している部分がいくつか存在していた。
もちろん、違う部分も存在しており、どのように差別化していたかを垣間見ることができた。
『勇者になりたい少女〈ボク〉と、勇者になるべき彼女〈キミ〉』に関する補足
『ボクキミ』に登場するキャラクターや用語について少し触れることに。
ルチカ
ルチカは勇者に憧れる魔王・エリーチカの娘。
レオニーに恋をし、積極的にアプローチをする。
魔力や闘気を喰らう≪暴食(グラトニー)≫を使いこなす。七つの大罪である暴食が元ネタといったところでしょう。
魔力や闘気によって味が異なるとか。
- レオニー:凄く密度の濃い優しい味
- ノール:ふんわりした甘くて柔らかい味
- ダニタ:トゲトゲしているもののまっすぐした味
魔力と闘気によって合う合わないがあるとのこと。レオニー・ノール・ダニタの放つ魔力と闘気はルチカに適合しているのだろう。ルチカがダニタに番候補になったかもと言ったのは魔力と闘気が適合していたのも理由なのかなと。
ちなみに、エリーチカと聞くと、『ラブライブ!』のえりちが頭に浮かぶ。
レオニー
レオニーは≪万能≫の勇者・レイニの娘。街で偶然出会ったルチカに結婚を申し込まれる。
ギアに剣術の才能を示される。レオニー自身、生活魔法に興味を示す。ルチカとの日々を過ごしていく中で剣術と生活魔法の両方を極めることを決意する。
作中では、ギアに示された才能と自らが学びたいものの間で葛藤することに。また、自らの出自についても悩まされる。
ノールとは幼馴染。
ルチカにプロトタイプと呼ばれるギアを渡し、ルチカを勇者の道へと導く。『わた推し』におけるクレアや美咲と同様の役割を持つ。クレアや美咲はレイを導いていた。
ノール
ノールは勇者を志すレオニーの幼馴染。
控えめな一面と芯の強い一面を見せる。成績も優秀。
母親は≪治癒≫の勇者として、レイニを支えた。
ルチカと共にレオニーをサポートする。
ダニタ
ダニタはルチカ達と同じく勇者を志す少女。
攻撃的な性格でルチカ達と衝突した。
大剣を武器に戦場を駆け抜ける。
母親・アリザのことで苦悩することに。
父親は≪戦斧≫の勇者。≪治癒≫の勇者と共にレイニを支えた。
ギア
ギアは勇者の戦闘を補助する魔道具。勇者学校に入学するために欠かせないアイテムとされている。ギアを持っているかどうかで振るいにかけられる。序盤で持つ者と持たざる者の差を実感することになるだろう。
個人の才能を判断するのに加え、簡易的な未来予測を行う。
上手く使いこなせれば、勇者の能力を向上しつつ、戦況を優位に進められる。その反面、人によっては自らの才能や未来に苦悩し、ギアに翻弄される可能性も。
首輪の形状をしており、ルチカ達はギアに束縛されているような印象を与えていた。(『バトル・ロワイアル』に登場する首輪を思い出した。)
歯車が描かれていることから、運命の歯車をイメージしているのだろうか。時計に用いられている歯車の如く、未来を刻む。
ギアによる未来予測は神託のようなものだろう。勇者学校の校則で勇者学校の生徒達はギアに従うことを求められている。
ギアと聞くと、『ギルティギア』のディズィーやジャスティスが頭に浮かぶ。
ルチカのギア・プロトタイプはまるで自らの意思を持っているかのよう。例えるなら、『フルメタル・パニック!』に登場するAIのアルのようだ。
ギアもまた、人や魔族、AIと同様に学習するのかもしれない。プロトギアがユリーチカの人格を基に作られたとしたら、それはそれで…
勇者
勇者は『ボクキミ』に登場する職業かつ題材。
ルチカ達は勇者になるためにさまざまなことを学ぶ。
人はレイニ達の後継を輩出すべく、勇者学校を設立することに。
勇者とは一体何かというのは『ボクキミ』におけるポイントなのかなと捉えている。勇者と聞いて、人によって捉え方が異なると思う。
作中の様子を見る限り、武術や魔法はもちろん、教養や常識などに秀でることも条件なのかもしれない。
勇者達には、それぞれ違う名が与えられる。
- レイニ:≪万能≫の勇者
- ノールの母親:≪治癒≫の勇者
- ダニタの父親:≪戦斧≫の勇者
レイニには、強力な魔法使いがいたとか。金髪ツインテールの女の子が強力な魔法使いの娘なのかと期待してしまう。
2つ名を見ると、『鋼の錬金術師』を彷彿させる。『鋼の錬金術師』に登場する国家錬金術師達はそれぞれ2つ名が与えられていた。
- エドワード・エルリック:鋼の錬金術師
- ロイ・マスタング:焔の錬金術師
- アレックス・ルイ・アームストロング:剛腕の錬金術師
魔王の娘であるルチカが勇者を志し、魔王討伐に尽力を尽くした勇者の子孫がルチカの下に集う様子は印象深いものに。
天与技(ギフト)
天与技は類稀なる才能と幸運によって得られる異能。
魔法は汎用性に優れているのに対し、天与技は特化型で強力な力を発揮する。
才能は英語でgift(ギフト)と訳される。天が与えた技ないし贈り物といったところだろう。
『ボクキミ』において、天与技も物語を進めていく上で重要な要素になってくる。
ギアを用いることで人為的に天与技をある程度獲得できるとか。『わた推し』において、サーラスがリリィに2つ目の属性を付与した感じですかね。
天与技を上手く使いこなすことができれば戦闘を優位に進められるものの、過信し過ぎると負けてしまうこともある。
ルチカ達は天与技の特性を理解しつつ、チームワークやその時々の状況を意識することが求められる。
ルチカの初黒星を見ると、才能に溺れることなく、日々の努力や状況判断が大事だというのを実感させられるだろう。
勇者学校の五大訓
勇者学校で学ぶ者が心に刻まないといけない五大訓。旧約聖書における十戒を彷彿させる。勇者になるためには、5つの戒律を守らないといけないといったところだろう。
ギアに従い、弱者の味方となって世のため、人のために働かないといけないといった感じの決まりが定められている。法の番人となれという決まりから察するに、勇者は警察官の役割もあるのかなと。
五大訓を見れば見る程、首輪の形をしたギアが何とも言えない皮肉。『鋼の錬金術師』で言うところの軍の狗といったところか。
最後に
勇者を志す少女達の想いと葛藤を描いた『ボクキミ』。
「~したい」と「~するべき」の狭間で葛藤し続ける者達に希望を与えるルチカの活躍に加え、ルチカとレオニーが想いを通じ合わせていく様子が魅力なのだと思う。
困難に打ち勝つという部分は『わた推し』から引き継いでいるのかなと。
今後の展開に注目していけたらなと思う。
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