長い長い夏を駆け抜けた列車が終着駅に辿り着いた。

アニメ化してほしいマンガランキング2024の結果発表や海外版の展開を加味したら、まだまだ列車は走り続けるのだけど、雫と夏織の物語という名の列車は終着駅に辿り着いたと思う。

ゆあま先生との出会いは大阪での百合展最終日前日。あの日は百合姫で連載している漫画家さん達が打ち切りの危機にあることを告白した時期でゆあま先生の投稿を目にした時、「えっあなたもですか？」とスマホの画面に向かって叫んでしまいそうになった。

そんな出会いから数年、ゆあま先生の活躍を目にすることが多くなったと感じるばかり。というわけで、『君と綴るうたかた』6巻の感想を紹介することに。

それでは、最後まで楽しんでください！

基本情報

▼君と綴るうたかた（6）初回限定版 (百合姫コミックス)

雫と夏織の関係性が只々美しい…

どんな言葉が最適なのか分からないけど、雫と夏織の間に誰も入ることなんてできない。怒涛のラスト3話を抜けた後に読む小冊子が沁みる…

▼「君に贈る永遠」　君と綴るうたかた6巻　初回限定版小冊子電子版 (百合姫コミックス)

『君と綴るうたかた』の魅力は一体何かと聞かれたら、夏織が大切な人達を救うために奔走し、雫達の居場所を作る姿だと答える。

雫と夏織の百合や夏織によって救済された雫が新たな一歩を踏み出す姿ももちろん魅力的だ。だけど、この物語の中心にいたのは夏織だという答えにどう考えても行き着いてしまう。

夏織がいなかったら、一体どうなっていただろうか。雫は全てを消し去った後に自殺していたかもしれない。トラウマを抱え続けるるりも雫が自殺した知らせを聞いて、自分が殺してしまったと激しく後悔するかもしれない。芹も雫の自殺に苦しむるりを見て、一体どのような反応を示すだろうか。栞は本当に1人ぼっちになっていたかもしれない。

いずれも本編では起こらなかったこと。だけど、夏織がいなかったら、雫達はどうなっていたか分からないのは確かだ。

そういったことを考えると、夏織の残したものはとても大きい。本来なら交わることもなかったであろう4人の人間の繋がりを作るなんて想像以上に難しい話。ひょっとしたら、夏織のやろうとしていることの凄さを分かっていたのは芹だけだったのかもしれない。横浜での夏織と芹のやり取りを見ていると、芹は夏織に敵わないといった雰囲気を漂わせていた。そして、夏織のもっとも近い場所にいられるのは雫だけだというのも芹はよく分かっている。だからこそ、最終話で芹は雫を激しく叱責していたわけで。

カバー裏の漫画において、栞が雫がプレゼントしたウーパールーパーのぬいぐるみをいじめていたのは夏織の心の中が雫でいっぱいなのを実感していたからだろうな。栞が八つ当たりするのも無理はない。ドオーしてと思い、少し枕を濡らしたけど。

実際、いじめを行っていた人間といじめられていた人間が分かり合うことなんて1割もないだろう。こじれた関係はこじれたまま。それを踏まえると、雫達を見ていたら、この世界も捨てたものではないと感じる。

全編を通して感じたことは『君と綴るうたかた』に描かれている出来事は誰の身にも起こり得る出来事だということだ。誰もが被害者にも加害者にもなる。誰もが罪を犯し、誰もが救いを求めている。罪と赦しとは一体何か。過ちを犯したとしても、救いを与える人間がいるという実感する。

人間の抑圧された感情や身勝手な感情を描いた『ぜんぶ壊して地獄で愛して』もその一例。来未に身勝手な期待を押しつける人間達は来未を苦しめ、追い詰めていた。だけど、そんな来未を解放し、救済したのは他ならない直井。『君と綴るうたかた』とベクトルは異なるものの、誰にでも起こり得る出来事を描いた点は共通している。

違いがあるとするなら、救いの方法といったところだろうか。夏織は雫に過去と向き合うきっかけを作っただけでなく、その後の雫の人生における道標となっていた。雫のファンとして、雫の恋人として、夏織は過去に囚われ続けていた雫を救済することに成功した。

雫と夏織の関係性は恋人同士やクラスメイトという関係だけではない。クリエイターとファンの関係でもあるのだ。昨今、YouTubeなどでの配信やクリエイターとファンがリアルで対面する機会も珍しくなくなっている。ゆあま先生の配信に遊びに来るファンの方も多いのではないだろうか。

雫は学校内での過ちに後悔し続けていただけでなく、Web小説サイトでの誹謗中傷に苦しめ続けられていた。Web小説サイトやSNSでさまざまな言葉のやり取りが行われている昨今、誹謗中傷がきっかけで大きな事件に発展することも往々にしてある。雫の小説がきっかけで雫は多くの人間から誹謗中傷を浴びせられてしまうことに。コンテンツを壊した人間達はのうのうと生きているのかなと思うと…

ブログを何年も運営し続けていると、Web上で誹謗中傷を浴びせられていた雫の気持ちも何となく分かる。事実、私自身も原因は異なるものの、手厳しいコメントを頂いたことがある。リアルで居場所を無くし、インターネットの世界に居場所を求めた雫にとって、居場所を奪われる痛みは計り知れないものだったと思う。雫の痛みを完璧に理解し切れているわけではないけど、決して軽いものではないのは確か。ゆあま先生に限らず、どの漫画家さんに対しても節度を持って接していきたいものだ。

ファンの存在はクリエイターにとって想像以上に大きいというのが描かれているのも魅力の1つ。ファンが楽しむ姿・喜ぶ姿もクリエイターのモチベーションを上げるファクターになっているのだろうな。そう考えると、夏織の存在は雫にとって大きいものだというのがよく分かる。

この長い長い夏を通して、夏織は雫の1番のファンだけでなく、雫の恋人になることができた。雫の心の中で夏織が生き続けているのは小冊子の内容を見れば察することができると思う。

『君に贈る永遠』の感想

本編で出来なかった約束がついに…

雫は夏織の約束をずっと覚えていただけでなく、それを果たしたというのは泣ける…

『君に贈る永遠』を読むと、『君と綴るうたかた』は雫と夏織の純愛漫画だなと感じるばかりだ。そして、夏織の凄さも。

雫達はこれからも集まり、夏織と過ごした日々を懐かしむんだろうなと想像した。

あとがきでゆあま先生の考え方についても知ることができる。ゆあま先生の考え方に私も同感だ。

雫の恋人は夏織しかいない。他に考えつかない。もし、雫の新しい恋人が登場していたとしたら、それまで積み上げてきたものが全て台無しになっていたと思う。甘いハッピーエンドを望んでいる方には悪いけど、雫の左薬指は満席だよ。

2枚のリーフレット

メロンブックスとアニメイトで購入すると、リーフレットが付いてくる。

純白の服に身を包んだ雫と夏織が結ばれた姿。2人の表情は幸せそうだ。周りに描かれている花達は祝福の花束といったところだろうか。

メロンブックスで付いてきたリーフレットには、夏織との出会いを通して雫が変わった様子が描かれている。シオンも雫の変化を喜んでいるようだ。

アニメイトで付いてきたリーフレットには、『君と綴るうたかた』6巻の表紙に関する裏話が収録されていた。

『君と綴るうたかた』6巻と『君に贈る永遠』の表紙は対を成す。

こうして表紙を見てみると、美しいなと感じるばかり。『君と綴るうたかた』は全編を通して、緻密で繊細な作画だったな。

『君と綴るうたかた』によって生み出されたもの

『君と綴るうたかた』はさまざまなものを生み出した。雫達の存在・数多くのファン。

ゆあま先生の配信では、根強いファンの方達を目にする。

そして、『君と綴るうたかた』を支え続けたサクタロー先生の『あさぎ色のサウダージ』もその1つだと捉えている。ゆあま先生がX上で『あさぎ色のサウダージ』を紹介していたので、読んでいる方もいるのではないだろうか。

『あさぎ色のサウダージ』は漫画家として再起する2人の女性の人生を描いた百合漫画。居場所を探し求めた蓮とかつてのクラスメイト・まつりが偶然再会したところから物語が始まる。蓮とまつりは一体どのような漫画を紡ぎ出すのか。

サクタロー先生もゆあま先生に負けず劣らずの緻密な作画を描いている。『君と綴るうたかた』と同様、繊細な心理描写が楽しめる。だけど、2つの漫画の性質は全然違う。『君と綴るうたかた』は過ちを犯した少女が過去と向き合う様子と1人の優しい少女が大切な人々を繋ぎ合わせる様子を描いた百合漫画なのに対し、『あさぎ色のサウダージ』は2人の女性が学生時代の青春をやり直し、漫画に情熱を注ぎ込む様子を描いた百合漫画。

『君と綴るうたかた』やゆあま先生がきっかけでサクタロー先生のことを知った方達は是非、『君と綴るうたかた』と『あさぎ色のサウダージ』の違いを感じて欲しい。

最後に

約4年もの間、駆け抜け続けた『君と綴るうたかた』。

決して忘れられない夏を送り届けた雫達に心からの感謝。

ありがとう。そして、お元気で。夏織と雫に贈る言葉は一体何かと考えていく中で、これに辿り着いた。

無駄という無駄を削ぎ落され、隙が無い百合漫画だったと思う。小冊子も雫達の関係性や雫の夏織を想い続ける気持ちに絞り込まれており、こちらも隙が無かった。

罪や過去に向き合うとは一体何か・赦すとは一体何かについて掘り下げつつ、雫と夏織の純愛物語を上手く絡ませていたのが印象的。大切な人と明日を生きることがどれだけ幸せなのかも実感できる。夏織の生きたいという気持ちがリアルに描かれており、それを目にした際の雫も人間味が溢れていた。

読み終えた時、不思議な読後感を感じるばかり。『君と綴るうたかた』に興味を持った方は是非最後まで雫と夏織の物語を駆け抜けて欲しいな。

思えば、リアルでもインターネット上でも他人と出会うことが多くても、分かり合えることは想像以上に少ない。時には、最低だと感じることも。雫と夏織を見ていると、この世界も捨てたものではないと感じるのと同時に明日を生きようという気持ちが強くなる。私自身、誰かに救いを求めるくらい弱い人間なんですよ。

最終話の感想の時でも言ったけど、ゆあま先生に心からのありがとうを贈りたい。

百合姫でゆあま先生の新作が発表された時はゆあま先生にこの言葉を贈ろうと思う。

「オカエリ」

その日が来るまで、みなさんさようなら。

終幕

English edition

※This English is a machine translation.※

The train that ran through the long summer has arrived at its final station.

Considering the announcement of the results of Manga We Want To See Animated Ranking 2024 and the development of overseas versions, the train will continue to run, but I think the train called Shizuku and Kaori's Story has reached its final station.

My encounter with Yuama-sensei happened on social media the day before the final day of YURITEN2019 in Osaka. It was around the time when manga artists who were serializing in Yuri Hime were confessing that they were in danger of being discontinued, and when I saw Yuama-sensei's post, I saw a message on my smartphone saying, "Huh? You too?" I almost screamed at her.

It has been several years since that encounter, and I feel like I have seen more and more of Yuama-sensei's activities. So, I decided to introduce my impressions of Volume 6 of "The Summer You Were There".

So please enjoy until the end!

Thoughts on Volume 6 of "The Summer You Were There"

The relationship between Shizuku and Kaori is just beautiful...

I don't know what words are best, but no one can come between Shizuku and Kaori. The booklet I read after finishing the last three turbulent episodes is so heartwarming...

If you ask me what the appeal of "The Summer You Were There" is, I would say that it is the way Kaori works hard to save the people she cares about and creates a place for Shizuku and the others.

Of course, the sight of Shizuku and Natsuori's yuri and Shizuku taking a new step after being rescued by Natsuori is also fascinating. However, no matter how I think about it, I end up with the answer that Kaori was at the center of this story.

I wonder what would have happened if Kaori hadn't been there. Shizuku might have committed suicide after erasing everything. When Ruri, who continues to suffer from trauma, hears the news of Shizuku's suicide, she may feel intense regret that she was the one who killed her. How will Seri react when she sees Ruri suffering from Shizuku's suicide? Shiori might have been truly alone.

None of this happened in the main story. But it's true that Shizuku and the others don't know what would have happened if Kaori hadn't been there.

Considering this, Kaori's legacy is huge. It was more difficult than I imagined to create a connection between four people who would never have met in the first place. Perhaps Seri was the only one who understood the enormity of what Kaori was trying to do. Looking at the interaction between Natsuori and Seri in Yokohama, it seemed like Seri was no match for Kaori. And Seri is well aware that Shizuku is the only one who can be the closest to Kaori. That's why Seri harshly scolded Shizuku in the final episode.

In the manga on the back of the cover, Shiori was bullying the axolotl stuffed toy that Shizuku had given her, probably because she realized that Kaori's heart was full of Shizuku. It's no wonder Shiori gets eight hits. I thought it was DO-shite, so I wet the pillow a little.

In fact, it is unlikely that the person doing the bullying and the person being bullied will understand each other. A strained relationship remains strained. Considering that, when I looked at Shizuku and the others, I felt that this world was not something I had thrown away.

What I felt throughout the story was that the events depicted in "The Summer You Were There" could have happened to anyone. Everyone can be a victim or a perpetrator. Everyone has sinned and everyone is seeking salvation. What exactly is sin and forgiveness? Even if I make a mistake, I realize that there is someone who can help me.

An example of this is "If that's love, break it.", which depicts people's suppressed and selfish emotions. The people who imposed selfish expectations on Kurumi were tormenting and cornering Kurumi. However, the person who freed Kurumi and saved her was none other than Naoi. Although the vector is different from "The Summer You Were There", they have in common that they depict events that could happen to anyone.

If there is a difference, is it in the method of salvation? Kaori not only gave Shizuku an opportunity to face her past, but also served as a guidepost for Shizuku's subsequent life. As Shizuku's fan and lover, Kaori succeeded in rescuing Shizuku from being trapped in the past.

Shizuku and Kaori's relationship is not just that of lovers or classmates. It's also a relationship between creators and fans. Nowadays, it is not uncommon for creators and fans to meet face-to-face in real life, as well as on YouTube. I think there are many fans who come to watch Yuama-sensei's broadcasts.

Not only did Shizuku continue to regret her mistakes at school, but she also continued to suffer from slander on a web novel site. Nowadays, various words are exchanged on web novel sites and SNS, and slander often leads to major incidents. Because of Shizuku's novel, Shizuku is subjected to slander and slander from many people. I wonder if the people who destroyed the content are living peacefully...

After running a blog for many years, I can kind of understand how Shizuku felt when she was subjected to slander and slander on the internet. In fact, I myself have received harsh comments, although the reasons were different. For Shizuku, who lost her place in the real world and sought a place in the internet world, I think the pain of having her place taken away was immeasurable. I don't fully understand Shizuku's pain, but it's certainly not light. I want to treat all manga artists, not just Yuama-sensei, with moderation.

One of the attractions is that it depicts that the existence of fans is bigger than creators can imagine. Seeing fans having fun and being happy is probably a factor that increases creators' motivation. When you think about it that way, you can clearly see that Kaori's existence means a lot to Shizuku.

Throughout this long, long summer, Kaori was able to become not only Shizuku's number one fan, but also Shizuku's lover. I think you can tell from the contents of the booklet that Kaori continues to live in Shizuku's heart.