風羽子…あなた、ゆにの息の根を止めた後、ゆにの後を追うつもりだったな!?
風羽子は紛れもなく、ゆにのママだった…
風羽子の言葉に偽りが無かった思う。お揃いのピアスを捨てるなんてことを言って、風羽子の心を傷つけるゆには本当に悪い子。
「教育しろ」と捨て台詞を言ってることを踏まえると、ゆには自分の立場がまだ分からないようだ。
鉢巻でゆにの首を絞める風羽子を見ると、心が締め付けられる…風羽子からしてみれば、ピアスを捨てる行為は裏切り行為そのもの。大切な思い出なのだ。ゆにと七瀬が付き合ってから半年記念日をゆにと風羽子の思い出で塗り潰した証だ。
首を絞める描写といえば、4巻の描き下ろしエピソードを想起させる。あちらでは、ゆにが風羽子の首を絞めて息の根を止めた後、風羽子の後を追うことを考える様子が描かれていた。
29話は4巻の描き下ろしエピソードと対になっているのだと感じた。
風羽子がゆにに仕返しと言わんばかりにゆにの舌を噛んでいたし。過去にも、ゆには自分のママである風羽子に反抗的な態度を取っていた。
ゆには風羽子をたくさん傷つけている。
風羽子がいなければ、なにもできないのに。
ゆにが母性あふれる風羽子を怖いと感じるのは当然だ。なぜなら、風羽子はゆにのママだから。風羽子の愛情は宇宙よりも広く、ブラックホールよりも深い。太陽の光よりも温かい。
ゆにを丸ごと包み込むだけの抱擁力が風羽子にはある。
風羽子にあやされるゆには母親にたっぷりの愛情を受ける赤ちゃんのようだ。
ゆには風羽子の腕の中が心地良いからこそ、怖く感じてしまう。それ程までにゆにの心と体は風羽子専用に教育されてしまった。ゆにの心と体は風羽子の愛情しかピッタリはまらなくなってしまった。
4巻における岩見先生のコメントにおいて、風羽子の体は相手を包みこんでくれるような肉付きをしていることが伝わるように描いていることが言及されていた。確かに、風羽子の体は肉付きが良い。作中における風羽子の言動から優しさが滲み出ている。それは多くの方が感じ取っている部分ではないだろうか。
風羽子の母性を覚醒させるカギは複数存在する。それは以下の4つだ。
- 風羽子の祖母が風羽子に注いだ愛情
- 家族からの冷たい仕打ち
- ゆにとの出会い
- 優月との再会
風羽子は祖母から愛情を受けていたのと同時に母親から愛情を与えられていない側面を持つ。5巻の描き下ろしエピソードにおいて、風羽子は母親によって精神的なダメージを受けていたことが描かれていた。現在も、風羽子は家族と良好な関係を築けていない。
だけど、そんな中、風羽子に大きな変化が生じた。きっかけとなったのは優月との再会。優月は結婚後、出産していた。風羽子は優月の子供と接していく中で母性本能を覚醒させる。優月に全てを告白した風羽子はゆにのママになることを決意することに。ゆにが七瀬の愛情に飢えていたことをすぐに見抜いていたに違いない。ゆにも愛すべき存在と辛い別れを経験し、孤独感に苛まれる辛さを最も理解している女の子だ。
赤ちゃんを抱っこする際、抱っこの仕方を配慮しなければならない。抱っこの仕方によっては、赤ちゃんが泣き出したり、ケガをする可能性がある。
赤ちゃんが安らぎを感じるためには、抱っこする人間が最適な方法で抱っこしなければならない。
七瀬のお姫様だっこは風羽子の愛情と対になっていたと思う。
七瀬にお姫様だっこされていた時のゆにの表情見ました???
モザイクがかかるくらいにゆにの顔が酷いことになっていということだ。岩見先生、天才かよ!!
ゆにの表情とセリフから辛さが滲み出ていた…
ゆにの笑顔を見てると、苦しくなる。
映しちゃダメな顔ってやつか。
ゆにの心と体が七瀬専用では無くなっていた。七瀬はゆにがどうすれば心地良い気分になれるのか考えていただろうか?七瀬の視線の先には、ライバルの風羽子がいたに違いない。七瀬は風羽子に負けないことを宣言するため、借りもの競争で抱っこする相手にゆにを指名した。ゆにと七瀬は特別な関係であると全校生徒に伝えることにより、風羽子がゆにに手出しできない状況に持っていこうしたのではないかと私は解釈している。
風羽子は七瀬からゆにと付き合ってから半年記念日や初めての夜、初めての遠隔地へのデート記念日を奪っている。七瀬がどれだけ思い出を重ねても、それらを取り戻すことはできない。思い出を重ねれば重ねる程、七瀬は敗北感を味わうのだろう。
以前までのゆになら、七瀬からの指名はさぞ喜んでいただろう。それを嬉しくない・幸せではないと感じさせるくらいにゆにの心と体は風羽子専用に作り変えられたのだ。
まるで、冬虫夏草の根っこに全身を支配された昆虫のように。
ゆにはママである風羽子を恋しく思うくらいに深刻な状態に陥ってしまっている。
そう思うと、ゾクゾク感じてしまう…
『今日はカノジョがいないから』5巻の購入特典にゆに達のプロフィールが付いてきた。プロフィールを見ると、ゆにと七瀬の価値観が合わないことが分かる。
冒頭でゆにが学ランではなく、チアガールのコスチュームが好きと言っていたことからも、ゆにと七瀬の趣向が異なることを感じ取れるのではないだろうか。七瀬は何の違和感もなく、学ランを着こなしていた可能性がある。
ゆにと七瀬は最初からお似合いではなかったのだ。こればかりは七瀬だけの問題ではない。5巻における岩見先生のコメントからも七瀬は本当の意味で悪い子ではないのが分かる。だけど、七瀬の愛情がゆにの心と体に合っていない。
風羽子による教育の成果がしっかり出ていた。記念日も環境も体も心も侵食された。
ゆにと風羽子に厳密な意味での上下関係はなく、同じ立場に立って現在の状況を克服する関係といったところか。ゆにの辛さを風羽子は自分のことのように受け止めている。ゆには風羽子の愛情の深さや弱さを理解していく。風羽子もまた、ゆにの弱さを理解する。
風羽子はこの数ヶ月の間にゆにとの信頼関係を築いたようだ。仕事やプライベートでの対人関係において、信頼が求められる。風羽子はゆにを知り、ゆにが求める行動を行い続けてきた。ゆにがママである風羽子を求めるのは当然なのだ。七瀬はゆにとの信頼関係を十分築けていない。ゆにが七瀬を嫌うだけの理由は十分ある。
七瀬は自分本意でゆにに不快感を抱かせた。本当にゆるせねぇな夏目七瀬。
ゆにを理解した風羽子とゆにを理解しなかった七瀬との差はあまりにも大きい。
他者との信頼関係を築くためには、相手の話を傾聴し、時に共感の姿勢を見せることが大切だ。要は相手を目と耳で見て、心で相手を感じる。口で言うのは簡単だけど、実行するのは難しい。人は皆、違った個性を持つのだから。
後、目の描写も秀逸じゃなかったですか??風羽子のまつ毛が美しい…風羽子の表情に奥行きを与えている。まつ毛は目をより際立たせる。
瞳の奥に注目してしまう。
岩見先生の細部にまで渡る描き込み具合は相変わらず素晴らしい。
風羽子がゆにを誰よりも深く愛していることがよく分かる話に仕上がっていたと思うのだ。
母親が恋しいと感じさせる描写は樫風先生の『キミが吠えるための歌を、』にも描かれていた。主人公の1人である優雨は母親に認めてもらうために音楽活動を続けている。母親からの愛情というのは人に想像以上の影響を与えるではないかと実感させる。妹である美雪に愛情のベクトルが向いていたとしても、優雨は母親が好きであることに変わりはない。音楽を続けることが母親と再会するための唯一の方法であると信じて、優雨は晴のために曲を作り続ける。
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