『百合作家たちの作文用紙』の感想について語っていくことに。
内容
【内容】
作文と漫画を融合させた合同誌。作文の内容に基づいた百合漫画が全部で3本収録されている。
【見どころ】
- 異なる媒体を融合させることで味わえる奥行きのある物語
- 一粒で三度おいしい三者三様の百合
- 各作家の執筆歴などが分かる充実したプロフィール
作家名 | 代表作 |
---|---|
アジイチ | 『できそこないの姫君たち』 『白き乙女の人狼』 etc |
瀬田せた | 『百合鍵』 『ゆりかべ』 etc |
ちさこ | 『北陸とらいあんぐる』 『おとりよせしまっし!』 etc |
感想
【大まかな感想】
漫画の当たり前を見直せる合同誌だと思った。作文と漫画を融合させるアイデアは単純に面白い。異なる媒体が上手くかみ合うことで物語・表現の幅が広がっていると感じた。作文で想像力を搔き立てつつ、それに付随した漫画で全てが明らかになるのは良いなぁと。
作文を読み終えた後、「なるほど、そういうことか!」「ラストにそんなサプライズがあるとは…」「怖っ!」といった驚きがあった。初見の時は作文を読みつつ、一体誰の作文なんだろうと考える楽しさがある。二度目以降もシチュエーションを想像しながら、漫画に臨めるし。何度も楽しめる1冊だった。後、表紙も触り心地が良い。紙質においても、こだわりが詰まっているのがよく分かる。
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アジイチ先生
親友を題材にした百合。いや…果たして、あれは親友と呼べるのか。しのぶはきょうかに対して深い愛情を抱いているようだけど、きょうかは一体どのような感情を抱いているのか気になった。作文を読み進めていくと、「おい、マジか…」って言いたくなった。しのぶの愛情の深さもヤバいけど、それ以上にきょうかがヤバい。
きょうか、まさか…嫌な考えを想像した。
初っ端からとんでもない展開を用意しているとは思わなかった。サブタイトルの「夜雨」から不穏な雰囲気を予想できなくもないけど。
親友によって精神と運命を狂わされていく女性の姿について生々しく描かれていたと思う。
きょうかの表情が描かれている場面が極端に少ないことが逆にきょうかの怖さを引き立てていた。しのぶの告白文にあった「誰とでもどんな会話でも広げられるスキルを持っている」に答えがあるような気が。
読めば読む程、しのぶときょうかの関係性が怖いなと感じた。
瀬田せた先生
バイオハザードを題材にした百合。作文から時間が経過するにつれ、危険な状態になるのがよく分かる。「かゆ…うま…」って言葉が出てきそうに…
最後まで読み終え、思わず「マジかぁ…」って言いたくなる。作文という媒体を巧みに使いこなしていたと思う。物騒なことや小野がウイルスで段々変化していく様子が描かれていたからこそ、ロマンチックなシチュエーションが異質に映った。小野と春名のやり取りだけ見れば、美しく映るかもしれない。だけど、全体を通して見ると、ロマンチックなシチュエーションが怖く見える。
春名が真実を知った時、一体どんな反応を示すのだろうか。想像できない。いや、想像したくない。
本当の怖さはそこですかと。全てを察した上でその反応だったとしたら、尚更怖いな。
ちさこ先生
妹のようなお姉さまとお姉さまのような妹の百合。外見も悩みも異なるけど、似た者同士の2人の物語といった印象を受ける。どこか似たような悩みを抱えていたからこそ、橘と里帆はお似合いだなと感じた。
最初の1ページから橘の妹であり続けたいという願望が強いのがよく分かった。里帆に甘やかされているような感じもするので、橘は里帆と一緒にいるのは悪くないような。
社会に出て、スールになった橘と里帆は活き活きしていたのは確か。スールになったことにより、望んでいるものを手にすることができたからなのかもしれない。
橘の心の声がとても面白い。そんなにお姉さまが嫌なのかと…
最後に
『百合作家たちの作文用紙』は異なる媒体を融合し、表現の幅を広げた意欲作だと思う。漫画と作文を組み合わせるアイデアは個人的に面白いなと感じた。3本の話が楽しめるだけでなく、各作家の執筆歴などを知ることができる。
ひと味違うものを読みたいと感じた方におすすめできる1冊。何度も読みたいと感じさせる。
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