交錯する4つの「好き」を描いた百合漫画!『この恋を星には願わない』1巻の感想

『この恋を星には願わない』1巻の感想を紹介します。

もくじ

『この恋を星には願わない』1巻の基本情報

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【『この恋を星には願わない』とは】

主人公の冬葵ふゆきは幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた瑛莉えりに対し、友達以上の感情を抱いてしまう。瑛莉もまた、京と付き合っているにもかかわらず、冬葵の一番でありたいという想いを募らせていく。


幾重にも絡みつく恋心。友達としての関係じゃ我慢できない2人の女性が歩んだ物語が今、幕を開ける!!



【基本情報】

  • 作者:紫のあ
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日:2023年6月15日
  • ISBN:9784049149746
  • 判型:B6

『この恋を星には願わない』1巻の内容

『この恋を星には願わない』1巻の内容
話数内容見どころ
1話

瑛莉と京が付き合うことを知った冬葵がショックを受ける話。


冒頭から冬葵達の思い出を振り返ることが提示されている。

冬葵が瑛莉とずっとそばにいるために冬葵が瑛莉と京の恋が終わることを願う姿。


瑛莉と京が付き合うことを知った冬葵の涙するシーン。

2話

今まで通りであろうとする冬葵に訪れた予想外の再会を描いた話。

瑛莉に対する想いを募らせた冬葵がレンタルビデオ店で瑛莉を自分の懐に引き寄せるシーン。

3話

過去に冬葵と黒川の間で一体何があったかについて描いた話。

瑛莉の恋愛遍歴に対し、ドス黒い感情を沸き立たせる冬葵。


黒川に対して、嫉妬心を募らせる瑛莉。

4話

瑛莉と京の初デートと冬葵と黒川のデートを描いた話。

京とのデート中においても冬葵のことでいっぱいになる瑛莉。


冬葵のまさかの宣言に困惑する瑛莉。

5話

冬葵達の中学時代と冬葵に対して寂しさを爆発させる瑛莉を描いた話。

瑛莉の一番の親友のポジションに立ち続けるために冬葵がとある選択を行うシーン。


冬葵が離れていくのではないかという不安を冬葵本人にぶつける瑛莉。


『この恋を星には願わない』1巻の感想


【大まかな感想】

まずは単行本の裏面を見てください。


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美しく淡いラブストーリー…?


いやいやいや。まてまてまて。淡いか…?これ…私はそう思わなかった。中々一筋縄ではいかないラブストーリーじゃないか…


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こうして見ると、人間関係が複雑ぅ…


タイトルを見て、「これは訳ありなんじゃ…」と感じた方も多そう。冬葵は瑛莉と京の恋を願っていない。むしろ、破局して、瑛莉が冬葵の懐に飛び込むことを願っているのが十分伝わってくる。


話が進むにつれ、冬葵と瑛莉が互いに想いを募らせていく様子が印象に残る。想像以上に複雑な人間関係が展開されていて、どんな過程を経て1話冒頭の光景にたどり着いたんだという疑問が湧く。


お似合いなはずなのに、どうして互いに傷つけ合ってしまうんだ…


瑛莉が世界で一番好きだと宣言した冬葵。冬葵に裏切らないでと約束を交わす瑛莉。互いに裏切り合って、傷つけ合い、想いを募らせる関係。中々ヘビーだわ。


1話1話を昇華するのに時間がかかった。繊細な心理描写や息を呑むシーン、複雑な人間関係と見る部分が多い。物語の展開・冒頭の引き・キャラクターの相関図がよく考えられていて、続きを読みたい・結末を知りたいといった気持ちを刺激してくる。特に、瑛莉の恋愛遍歴が原因で冬葵の感情がグシャグシャになるシーンとか…


後、文学作品を読んでいる感覚をなぜか覚えた。冬葵が自分の気持ちを回想するシーンがあるからかな。合う・合わないが出る気がした。『君と綴るうたかた』とか『熱帯魚は雪に焦がれる』といった百合漫画が好きな方には合いそう。


各ボックスをクリックすると、より細かな感想を読むことができます。

GO!

冬葵の追憶

誰かの結婚式当日から始まる『この恋を星には願わない』。1巻を読み終えた時、複雑な人間関係・感情と感情のぶつかり・いくつもの葛藤を経て、結婚式当日を迎えたということを察することができる。冬葵の視点で物語がスタートしていることを考えたら、花嫁は冬葵なのかなと。


最初の1ページにある程度経過した未来を描き、読み手の興味を引く演出は多くの作品に用いられている。「一体どうしてそうなったのか?」といった興味・疑問は物語を読み進めていくきっかけになる。前述でも触れた『君と綴るうたかた』の場合、辛い別れを経験し、現在いまを生きる主人公がひと夏の出来事について振り返っていた。


結婚式当日の場面に戻る時はおそらく最終話なのだと思う。冒頭のセリフを見た感じ、複雑な人間関係に決着がついているのかなと。作品によって、最初に提示された未来に追いつくタイミングが異なる。その未来に至るまで一体どのようなことがあったかについて考えられるのも『この恋を星には願わない』における魅力の1つ。


未来を提示し、過去を回想していく展開は作品に対する没入感を増しているような気がした。主人公の視点に立ち、物語を追うといった感じで『この恋を星には願わない』を読み進めている。



恋人・友達という言葉の重み

『この恋を星には願わない』では、恋人・友達という2つの単語に重みを与えているような印象を受ける。


京の告白によって、冬葵・瑛莉・京の友人関係のバランスが確実に崩壊した。


京の恋人になった冬葵の一番の友達である瑛莉。瑛莉の一番の友達であり続けるため、黒川の恋人になった冬葵。一番の友達であり続けようとすればする程、冬葵と瑛莉を苦しめる。冬葵が瑛莉に対して抱いていたのは友情ではなく、恋愛感情だということを察することができるのではないだろうか。


瑛莉の親友として、冬葵が瑛莉の相談に乗るたび、冬葵の精神がすり減っていた。瑛莉の下着の色まで理解しているというか…自分が選んだものだと冬葵が振り返るシーンはどこか生々しい。こういったドロッとした感情表現は読んでいて、惹き込まれる。冬葵は瑛莉のことをすみずみまで理解していると自負していたのかなと。


相談という名の無自覚の暴力やん…瑛莉、恐ろしや…


しかも、相談する時の瑛莉が可愛いと来てる。可愛さ余ってなんとやらですよ。


守って守られての関係をずっと続けてきたのに加え、好きだからこそ、冬葵は瑛莉の相談に乗る。学校で居場所を無くしていたことを考えると、尚更だ。過去の出来事に比例して、友達という二文字に重みが増していると感じた。


「裏切らないで」という瑛莉の言葉は胸を締め付けられる。学校内で孤立し、本当の意味で頼りにできるのは冬葵だということを考えたら、尚更だ。


過去の約束が冬葵と瑛莉を苦しめるなんて、なんという皮肉。瑛莉はズルいよ。


友達だけではなく、恋人という関係性も冬葵と瑛莉を追い詰めていた。瑛莉は冬葵が自分の下を離れていくのではないかという不安を吐露していたけど、冬葵も等しい痛みを感じていたわけで。


悲しませるようなことをしないと約束したにもかかわらず、冬葵は瑛莉の一番の友達であり続けるために黒川と恋人関係になると。約束を守ろうとするつもりが返って瑛莉を悲しませる。


冬葵は瑛莉の一番の友達であり続けるという理由があるのに対し、瑛莉が京の恋人になった理由がどうも…前向きではないと言うか。好きだと言ってくれたら、誰でも良いの?とか頭を悩ませますね。冬葵だけではなく、京すらも苦しめる。京に対して、真剣に向き合っているとは言い難い。


瑛莉には、冬葵しか見えていない。なんで、京の告白にOKしたんだ…瑛莉は本当に困ったちゃんだ。クラスメイトから嫌われる理由がよく分かる。最も嫌われることをしているからと言って、いじめて良い理由にはならないけど。


1話において、冬葵が京の告白を受け入れた瑛莉を見てショックを受けるシーンは個人的に印象に残りましたね。


完全に泣いてるでしょ…


雨のせいじゃない。雨のせいじゃない。


涙したいくらいの悲しみに襲われている冬葵の表情をあえて見せないことにより、読み手の想像を膨らませている。あまりにもショックな出来事でひどい顔をしていたんだろうな…


雨で涙をごまかしていたのも雨に打たれていた理由なのでしょうが。木を隠すなら森の中といった言葉もありますしね。


読み手の想像に敢えて委ねるシーンを用意し、「あぁでもない。こうでもない。」といろいろ考えられるのも漫画・アニメなどの創作物が楽しいと感じる瞬間の1つ。


冬葵は自分から瑛莉に人形を渡したかったんだろうな。京のメンツをつぶさないようにする優しさがある。そのアシストに京は感謝しないとですね。京よりも瑛莉のことを見ているというのに…


白と黒

冬葵と密にかかわる瑛莉と黒川。瑛莉の苗字は白井。名字だけ見ると、黒川と対になっている。


白と黒は反対色だ。2色とも無彩色のため、色みがあるわけではないですが。白は明度が高いのに対し、黒は明度が低い。明度とは、色の明るさを表す言葉だ。


白は純粋をイメージさせるのに対し、黒は闇・夜といった暗いイメージを抱かせる。だけど、それが瑛莉と黒川の個性を際立たせていると思う。純粋だけど、それ故に人を傷つけてしまう瑛莉。冬葵に優しく寄り添いつつもどこか重い感情を寄せる黒川。瑛莉の不安は間違っていないような気がする。


また、反対色で冬葵を巡る瑛莉と黒川の対立関係も表現されていると感じた。対立関係も物語に深みを与える要素の1つ。


冬葵の名前には、雪などの白をイメージさせる冬が用いられている。冬葵と瑛莉が並ぶとしっくりくる。カラーコーディネート的に言えば、統一感があるというか。同じ白でもルックス・性格などで色みが異なる。


冬葵は植物の名前でもある。白い花を咲かせる場合があるのが特徴の1つ。花言葉は「気高く威厳に満ちた美」だ。瑛莉が京と付き合うことになっても、瑛莉の友達であり続けようとした冬葵は気高さも持ち合わせているようにも見える。


涙を見せないために雨に打たれる姿は気高くあり続けようとしているとも解釈できなくは。最もそのシーンは気高さとは裏腹に現実を直視できないカッコ悪さもありましたが。それもまた、冬葵の個性だ。


京の名字が夏目ということを踏まえると、冬葵と京も名前で対立関係が表現されているように見える。暑さを感じさせる夏と寒さを感じさせる冬。人のことをよく見れていない京と人のことをよく見れている冬葵。京に対しても、しっかり個性づけされている。


キャラクターの名前と本編の内容から冬葵達の個性がよく考えられていると感じた。


シロツメクサの花冠

瑛莉がシロツメクサの花冠を被っていたのも個人的に印象的。シロツメクサの花言葉は「私を思って」「幸運」だ。冬葵が瑛莉に被せたのでしょう。これだけ瑛莉のことを考えているから、冬葵のことを思って欲しいと。瑛莉が幸せになって欲しいという願いもあると思う。


冬葵の想いは想像以上に重い。


最後に

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百合展2025大阪会場で『この恋を星には願わない』の単行本を購入したわけですが、恋人・友達という名の重さに加え、繊細な心理描写・複雑に絡み合う人間関係と光る部分がいくつもある。


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2巻・3巻と進むにつれ、冬葵・瑛莉を取り巻く人間関係はより複雑なものに。話自体のクオリティが高く、人気を集めているのも納得した。まだ読んでいない方はぜひ一度手に取ってみてください。


参考資料

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【書籍】

・『この恋を星には願わない』1巻

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