不器用過ぎる冬葵と瑛莉の葛藤が印象的な『この恋を星には願わない』2巻の感想

『この恋を星には願わない』2巻の感想を紹介します。


もくじ

『この恋を星には願わない』2巻の基本情報

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【1巻までのあらすじ】

幼い頃からいつも一緒に過ごし続けてきた京と付き合うことになった瑛莉えり。それに対し、冬葵ふゆきも瑛莉の一番の親友であり続けるため、高校時代の先輩・黒川と付き合うことに。


瑛莉に対する想いを募らせる冬葵。冬葵と黒川が付き合っていることに納得していない瑛莉。2人の想いがすれ違い、周囲を巻き込んでいく。それぞれの想いが絡み合い、ぶつかり合っていく…



【基本情報】

  • 作者:紫のあ
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日:2024年1月15日
  • ISBN:9784049154924
  • 判型:B6

『この恋を星には願わない』2巻の内容

『この恋を星には願わない』2巻の内容
話数内容見どころ
6話

瑛莉と京のカフェデート。

瑛莉と京がカラオケボックスで冬葵と黒川に出会うシーン。


黒川に対し、苛立ちを感じる瑛莉。

7話

冬葵達のカラオケ大会。

瑛莉と黒川の静かな対立。


冬葵に恋する乙女の表情を見せる瑛莉。

8話

瑛莉の誕生日。

瑛莉と京のやり取りをドアの隙間から覗く冬葵。

9話

黒川が傷心の冬葵を慰める話。

瑛莉にしたいことを黒川に行う冬葵。


黒川の優しさに甘える冬葵。

10話

冬葵が黒川に対し、自分はどうなりたいかについて告白する話。

黒川にどれだけ甘えても、どれだけ優しくされても、真っ先に瑛莉のことを考える冬葵。


冬葵のことで後悔する瑛莉。


『この恋を星には願わない』2巻の感想


【大まかな感想】

まず、裏表紙を見てください。


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……うん。そうだね、確かに2人は…


不器用過ぎやろ!!

本当は大好きなはずなのに、すれ違っている冬葵と瑛莉。瑛莉はタイミング悪すぎるし、冬葵に至っては気遣いが完全に空回りしてるし。どうしてこんなに不器用なんだ???


素直になれず、自身を傷つける冬葵を見てられないよ…


もう、これ以上困らせるのはやめてください!

って紫のあ先生に言いたくなった。ドロドロなヒューマンドラマも嫌いじゃないけど。


冬葵が自分の手を傷つけるシーンを直接描かず、結果だけ見せることで想像を掻き立てられる。どんな、表情で自分を傷つけていたんやろうかと。


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瑛莉と京のロマンスは吐き気を催したのは確か。冬葵が自身を傷つけたくなるのもものすごく分かる。トイレで悲嘆にくれる冬葵が本当に生々しい…


どうしたら、こんな生々しい場面が描けるの?っていう疑問が湧いてくる。ここぞという場面の見せ方が秀逸だと思う。大袈裟過ぎないようにするバランス感覚に驚き。表情の見せ方といい、言葉選びのセンスといい。いろいろな要素が上手くかみ合っている。


冬葵を見つめる瑛莉が恋する乙女過ぎるんよ…回想の冬葵もまんざらでもない表情してるし…どうして、OKを出したんや…


分かんない。分かんない。分かんない。


分かんないよ!!!

瑛莉が冬葵を苦しめる。冬葵もまた瑛莉を苦しめる。冬葵と瑛莉の仲に入り込むことなんて誰にもできない。片方が傷つけば、もう片方も傷つく。因果が巡る。


冬葵が一時の逃避を行えば、返って傷口が広がっていく。本当に冬葵と瑛莉は面倒が過ぎるぞ。苦しい道が冬葵が最も楽な道ってあんまりですよ。恋人・友達・家族といった言葉・関係性が人を縛りつけ、苦しめる。


一番の友達という楔が本当に煩わしく、見る者を苛立たせる。本当は誰よりも冬葵のことを愛しているくせに。本当は誰よりも瑛莉のことを愛しているくせに。


いろいろな意味で冬葵と瑛莉が痛々しいと感じさせる2巻だった。


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GO!

甘くないケーキ

カフェでケーキを食べていた瑛莉が冬葵に恋人ができたことを知り、不満げな雰囲気を漂わせていたのが印象的だった。ケーキの味、全然覚えていなさそう。


冬葵にとって一番の存在というポジションが脅かされるという危機感が瑛莉に襲い掛かっていたのだろう。大したことないと瑛莉が言っていたけど、全然大丈夫じゃない。秘密にされていたのも不満げに感じていた理由。


『この恋を星には願わない』2巻では、瑛莉の視点で過去の出来事を振り返る様子が描かれていた。未来の瑛莉のセリフは、大丈夫ではなかったのかなと感じさせるものだった。


白VS黒

カラオケボックスで瑛莉と黒川が冬葵について対話するシーンは『この恋を星には願わない』2巻における見どころの1つ。2人とも冬葵のことを大切に思っている。黒川の言葉1つ1つが瑛莉の心を的確に刺している。


冬葵を泣かせたら許さないって瑛莉が言っていたけど、私はこう思った。




お前が言うな。

黒川も内心、「お前が言うな。」って思っていたんやろうなぁ…


流される形で京と付き合うどころか冬葵に対して未練がましい一面を見せると。瑛莉が尤もらしいことを言うと、「瑛莉が言うの?」っていう想いが膨らんでいく。


散々、冬葵の心を傷つけて、このボケナス!!


黒川は俯瞰して、全体を見れているように思う。冬葵のことをよく理解しているからこそ、冬葵に優しくなれる。そして、瑛莉に対して落ち着いた雰囲気を見せる。


明度の高い白井瑛莉と明度の低い黒川は決して相容れない。


瑛莉と京を誘うところもジワるわ!!


ブラックストマック黒川だわ。甘い言葉の数々・冬葵本人の声を引き出すトークスキルを駆使し、黒川は冬葵を包み込んでいる。優し過ぎるが故に瑛莉と接する時の黒川を見ていると、ゾクッとする。


プレゼント

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冬葵と京が瑛莉に贈ったプレゼントが重すぎる。京がプレゼントしたネックレスは束縛をイメージさせるけど、冬葵のプレゼントもセンスがある。


冬葵がプレゼントしたのは口紅と鏡。どちらも持ち運びできるものだった。口紅で瑛莉を自分の色に染めると。瑛莉は冬葵からプレゼントされた鏡で冬葵の色に染まった自分自身の姿を見ることができなくも。


冬葵から瑛莉に贈るはずのプレゼントを渡された央恵ちかえは微妙な三角関係を察していたのも印象的だった。瑛莉と京が付き合っていることだけではなく、冬葵が瑛莉のことを好きなことを察していたのかな。自分の手に負えるものではないと察し、央恵は深くかかわらなかった。


プレゼントを贈ろうとした冬葵がドアの隙間から瑛莉と京の様子を見て、ショックを受ける場面は本当に生々しい…冬葵のショックがよりダイレクトに伝わる描写は背骨に電気が走るような感覚を覚えた。一種のホラーや…


思わず、怖いと感じさせる描写を自然に落とし込む紫のあ先生は漫画を描くのが上手いと実感する。思わずゾクッとさせるような描写・ドアの向こう側に広がるショッキングな場面を融合させるところが本当に凄い。



代償・逃避

冬葵が黒川の優しさに甘えるのは一種の逃避であり、代償なのかもしれない。瑛莉に対する恋心を抑圧し、一番の友達であり続けようとする冬葵にとって、瑛莉が京の恋人になることは耐え難い事実。一種の裏切り行為と言えるだろう。瑛莉は冬葵に決して裏切らない一番の存在であろうことを求めているにもかかわらず、京と恋人になる。


冬葵のことを理解し、優しくする黒川は冬葵にとって、最後の避難所。現実を完全に受け入れられない冬葵は黒川の懐に逃避し、黒川と過ごすことで満たされないものを満たそうとする。一種の代償なのかなと私は考えている。


瑛莉を奪った京に対する想いは親愛なものから醜悪なものに変化しているのかなと思わなくもない。ずっと仲良くしていたからこそ、冬葵の絶望感は計り知れない。


素直に祝福できない罪悪感と辛い現実からいなくなりたいなどの気持ちから冬葵は自身を傷つけるような真似をしたのではないだろうか。逃避というよりも否認といった感じもありそうな気がした。


黒川は冬葵を優しくするものの、真っ先に頭に浮かぶのは瑛莉。黒川では、冬葵を完全に満足させることはできない。

京が瑛莉の誕生日のことを話そうとした時、冬葵は予定があると嘘をついたのは辛くなることが分かっていたからだろう。本心は瑛莉と一緒にいたいはずなのに、そうしなかった。しかも、瑛莉の誕生日という冬葵にとって特別な日だ。


冬葵が選択した代償はとても大きい。心の痛みを一瞬和らげるかもしれないけど、逆に傷口が広がっていた。それどころか、瑛莉の心を傷つけてしまう結果に。恋愛において、冬葵と瑛莉は本当に不器用過ぎる。素直に愛を誓い合えば、楽になれたかもしれない…


瑛莉に対する恋心による痛みなどは冬葵が生きている証拠なのだと思う。



価値観

黒川が恋愛に向いていないと言っていたのも印象的。冬葵のセリフから黒川も恋愛絡みで心に深い傷を負っていたことを察することができる。恋をすれば、傷つくことがある。近くで見ているだけは辛くなるだけだということを誰よりも理解しているのかもしれない。


恋愛で心に傷を負っているからこそ、黒川は冬葵の心理状態を理解できる。冬葵のペースに合わせて会話を進め、冬葵の口から本音が出るのを待つことができる。


黒川は恋人・家族・友達といった関係性が不自由なものと捉えているのかなと。恋人・家族・友達は安らぎを与えることがあるけど、時に衝突することもある。ましてや、1人1人価値観が違う。黒川は母親との関係も悪かったみたいだし。自由になりたいから、実家という名の鉄檻から逃避した。


果たして、黒川は冬葵と本気で付き合うことができるのか。冬葵が頼りたい時に思いきり優しくする今の関係性が丁度いいと思っているようだし。どうも、冬葵と黒川が同じ方向を向いているようには…同じような経験をしているのは確かだけど。


それを考えたら、瑛莉と京も同じ方向を向いてるのかなという疑問が。瑛莉の優先順位第1位は冬葵みたいだし。サン=テグジュペリじゃないけど。


4人とも同じ方向を向いていないからこそ、互いに苦しくなっていくのだと思う。


瑛莉の回想

『この恋を星には願わない』10話には、瑛莉が過去を振り返るセリフがある。見た感じ、結婚式当日の瑛莉が発したセリフではなさそうだ。中学時代の約束を激しく後悔する瑛莉を見ていると、胸が締め付けられる。


10話ラストは冬葵と瑛莉が背中を向けているような構図になっていたと思う。それがすれ違い感をより引き立てている。


最後に

『この恋を星には願わない』2巻では、冬葵と瑛莉がすれ違っていく様子が色濃く描かれていた。冬葵が自身を傷つける行為・過去の約束で冬葵を追い詰めたことに後悔する瑛莉を見ていると、胸が締め付けられる。


それぞれが違う方向を向いていて、冬葵達は本当に不器用。分からないことが多く、無責任だった一面もあったからこそ、互いを傷つけ合ってしまう。


黒川も余裕ぶっているけど、恋愛しないのは傷つくのが怖いからだろうな。親しくなりたいけど、傷つくのが怖くて近づけない。ヤマアラシのジレンマってやつか。過去の経験から、冬葵と接する時に丁度良い距離を見つけている。


冬葵は瑛莉に本当の気持ちをぶつけようと言いたくなってしまう。


『この恋を星には願わない』は冬葵達の距離感・心理描写・対立・見せ場が秀逸な百合漫画。冬葵達の気持ちを理解するために神経を研ぎ澄ませながら読んでいる。読後感は凄いですね。


凄く華やかというよりは洗練された感じが強い。リアリティのある描写で読み手の心を惹いているような印象を受ける。


考えることが多いものの、その分読みごたえはあると思う。高く評価する方がいるのも納得。


気になる方はこれを機に、『この恋を星には願わない』を読んでみてください。


参考資料

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【書籍】

・『この恋を星には願わない』2巻

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