冬葵達の暑すぎる夏を描いた『この恋を星には願わない』3巻の感想

『この恋を星には願わない』3巻の感想を紹介します。


もくじ

『この恋を星には願わない』3巻の基本情報

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【2巻までのあらすじ】

誕生日を迎えた瑛莉えりに誕生日プレゼントを届けに来た冬葵ふゆき。冬葵が瑛莉の部屋で目にした光景は最も見たくないものだった…


傷心の冬葵は黒川に心の傷痕を癒してもらうことに。冬葵が来ていたことを知った瑛莉は激しく後悔する。すれ違いが加速する中、暑い夏休みが幕を開ける。



【基本情報】

  • 作者:紫のあ
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日:2024年8月9日
  • ISBN:9784049158717
  • 判型:B6

『この恋を星には願わない』3巻の内容

『この恋を星には願わない』3巻の内容
話数内容見どころ
11話

瑛莉が冬葵に誕生日の件で謝る話。

スキンシップを図る瑛莉を冬葵が拒否するシーン。

12話

映像研究部の合宿初日。

瑛莉と京の出会い。


黒川の名前が妃咲きさきと判明。

13話

冬葵達の映画撮影が開始した話。

瑛莉に見せつけるかのように妃咲が冬葵にキスを交わそうとするシーン。

14話

冬葵を巡り、瑛莉と妃咲が衝突する話。

瑛莉と妃咲の衝突。


瑛莉と京の衝突。

15話

映像研究部の合宿最終日。

冬葵による渾身の台本と台本に則って演技する瑛莉。


冬葵の苗字が香坂こうさかと判明。


『この恋を星には願わない』3巻の感想


【大まかな感想】

まずは裏表紙を見てください。


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ひたむきで儚いラブストーリー。うん…確かに。その原因を作っているのはうかつな瑛莉だし、素直になれない冬葵だけど。


冬葵達のうかつな一面とタイミングの悪さにより、頭の中をグシャグシャにさせられる…


冬葵。お前、人のこと言えねぇじゃねぇか!!

瑛莉は大切な冬葵のことを傷つけているけど、冬葵も瑛莉のことを傷つけている。瑛莉の誕生日に起きた出来事を思い出した冬葵が瑛莉を拒絶するところとかビックリするわ。


思わず声が出そうになる。冬葵の嫌悪感・拒否反応が生々しく描かれていた。冬葵の嫌悪感を生々しく描くところは『この恋を星には願わない』における見どころの1つ。


恋愛の意味で好きな人が他の誰かと情熱的になるとかマジで吐き気を催しますからね…


冬葵の嫌悪感・拒否反応に負けず劣らず描かれていた瑛莉の嫌悪感・拒否反応も生々しく描かれていた。正しくは冬葵に対するひたむきな気持ちと言えば良いだろうか。


冬葵と妃咲の秘密のやり取りを目にした瑛莉が京を拒絶するシーンとかも声が出た。


マジかぁ…って連呼したくなる。冬葵と京を散々困らせる瑛莉は本当に困ったちゃん。わがままプリンセスかよ…


京が瑛莉に拒絶されたと思ったら、さらに驚きの爆弾を投下してくる紫のあ先生はドSかと言いたくなった。何回困らせたら気が済むんですか???


まぁ、それもご褒美だと思うけど。内心はこう思ってる。


ありがとうございます…ありがとうございます…

もっと、もっとくださいって感じだ。冬葵と瑛莉のキラッキラした描写がある分、ドロドロな描写がより際立つ。このバランス感覚がたまらない。1話冒頭の場面に追いつくまで気が抜けない。


ここぞという時の見せ場と心理描写が秀逸で各キャラクターの魅力が引き立っている。この辺は1巻・2巻の時にも感じた部分だ。1つ1つの描写が丁寧に描かれていて、隙がないなぁと。


『君と綴るうたかた』でも感じたことだけど、無駄を削ぎ落したタイプの百合漫画だと思う。冬葵と瑛莉のひたむきな感情・うかつな一面・ドロドロした一面が全面に押し出されているような。


後、キャラクターのフルネームがある程度話が進んでから明らかになる部分は『安達としまむら』が頭に浮かぶ。それにしても、黒川のフルネームが黒川妃咲か。美しさを感じさせるネーミングセンスだ。白井瑛莉が白雪姫なら、黒川妃咲は黒雪姫ですか。


2人のお姫様が深い眠りについている眠り姫を巡って火花を散らす姿は見ていて、ゾクゾクしてしまう…!!


妃咲が瑛莉を挑発し、瑛莉がそれに反応する姿とかイイ…実にイイ…!


話が進めば進む程、袋小路に入り込む物語の出口に一体いつたどり着くのか気になるところ。1冊1冊、読みごたえがある。


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GO!

拒絶

『この恋を星には願わない』3巻を一言で例えるとするなら、この言葉が頭に浮かぶ。


拒絶

作中では、いくつもの拒絶が描かれていた。


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今までなら受け入れられたもの・違った出会いだったら受け入れられたもの。それが受け入れられなくなった瞬間を生々しく描かれている点は見ていて、胸が締め付けられる。


「どうしたって今までどおりではいられない」


冬葵達の現状を端的に表現した一言だと思う。今までどおりの日常を拒絶する冬葵達。京が告白した時点で均衡が崩壊した。拒絶の内容を整理すると、このようになる。


各キャラクターが拒絶したもの
キャラクター拒絶したもの
冬葵

瑛莉と京が付き合うことになった事実。

瑛莉と京のキスシーン。

瑛莉

冬葵と妃咲がキスを交わそうするところ。

冬葵を介抱する妃咲。

京の瑛莉に対する想い。

妃咲

冬葵を介抱しようとした瑛莉。

引っ越した京に挨拶しに来た冬葵と瑛莉。

京の姉が遠足のお弁当をコンビニで用意することを提案したこと。


こうして見ると、冬葵達は各々違った苦労を抱えているなぁと感じる。妃咲にとって、瑛莉は冬葵を悲しませる存在として映っているんだろうな。


瑛莉と京が付き合っている事実を冬葵が受け入れられなかったこともしっかり描かれていたけど、瑛莉が妃咲と京を拒絶する姿も生々しく描かれていたと思う。1つ1つの所作が丁寧に描かれているからこそ、心の叫びもよりダイレクトに伝わってくる。


瑛莉が京を拒絶するシーンは思わず息を呑む…


京もたまらず、こんな感じの想いを抱いていたんじゃないかな。


お前、何言ってるんだ???

京の驚きの表情がリアルでリアルで。京の驚きと絶望は物語をより美味しくするスパイスになっていた。


「たかが幼なじみ」という京のデリカシーのない一言は、瑛莉が拒絶という名のトリガーを引かせるのに十分だった。


たかが、幼なじみだと…???

たったかが、幼なじみだと…???

だから、選ばれないんだよ。


瑛莉の行動原理

瑛莉の行動原理はたった1つ。


冬葵

誰だって大好きな人の一番星になりたい。誰だって大好きな人の未来にいたい。誰だって大好きな人の隣にいたい。


だからこそ、冬葵に拒絶されたらショックを受ける。冬葵と妃咲がキスを交わそうとしたら、ショックを受ける。妃咲に冬葵がもたれかかったら、ショックを受ける。


瑛莉のライフは0。


自分だけの居場所を奪われると、憎悪の炎で煮えたぎる。怒りの感情を剝き出しにする。


小学校時代の瑛莉と京のエピソードは京を地獄に叩き込むのに十分すぎるものだった。読めば読む程、瑛莉の行動原理は冬葵なんだということを実感できる。京を独りにさせると冬葵が悲しむかもしれないという考えから選択した瑛莉の行動は京の心をズタズタにしていたと思う。


瑛莉が遠足に参加しない京について行ったのは


なんじゃそれ???


瑛莉が対人関係でトラブルを引き起こすのがよく分かる。何度も言うけど、瑛莉の言動に問題があるからと言って、いじめを行って良い理由にはならない。


一言が多い。


本人が傷つける意思が無くても、無自覚な言動が他者を傷つける。そんなんだから、周りの人間は瑛莉に対して、ヘイトが溜まる…


冬葵に対するウエイトが大きいのも相まって、周りの人間のことを考えるだけの容量が少なくなっているのかな。


本人にその気がなくても、誰かを傷つけるというのは前述でも触れた『君と綴るうたかた』の主人公・雫にも同様のことが言える。瑛莉とは事情が異なるけど。


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15話ラストにおける瑛莉の言動からも冬葵の存在が大きいことが伝わってくる。冬葵の優しさが瑛莉を逆に苦しめる。


幼なじみという言葉は瑛莉の心をグサッと突き刺すナイフのようだ。


冬葵にとって、瑛莉は一番大切な存在なのに…瑛莉にとって、冬葵は一番大切な存在なのに…


冬葵と瑛莉が同じ方向を向いていなかったことに加え、冬葵と京に甘え過ぎたことで今までどおりではいられなくなった。


少なくとも、合宿での出来事を機に、瑛莉の心に変化が生じたのは確かだ。


ガラス1枚の障壁

ガラス1枚の向こう側における幕間は昼ドラかと言いたくなる。妃咲が瑛莉だけではなく、冬葵に対しても苛立ちを感じていたように見える。


あんな女のどこか…あんな女のどこが良いのよ…


と妃咲は冬葵に対して言いたかったのかな?


自分だったら冬葵を幸せにできる・苦しませないといった想いを妃咲は抱いていたのだと思う。


冬葵のことが大切だからこそ、妃咲は冬葵を傷つける瑛莉と自ら傷つく道を選ぶ冬葵に苛立ちを覚える。


1枚のガラスによって冬葵の下に行けない瑛莉が見たくもない現実から目をそらす姿は何とも言えない…


妃咲は瑛莉がいることを知ってわざと…1枚のガラスに守られていることを知った上でキスを交わそうとしていたとしたら、それはそれで怖いなと思う。瑛莉が冬葵と同じ苦しみを味わったのは事実だ。


瑛莉に見られるかもしれないというリスクを承知の上で妃咲が冬葵にキスを交わそうとしたのは愛情の裏返し。傷つけたくはないけど、愛情とは裏腹の感情が湧き出てくる妃咲の心理状態はギリギリなのかなと思わなくもない。瑛莉の代わりは満足できないといった気持ちでいっぱいでしょ?妃咲。


1輪のバラ

14話冒頭で描かれていた1輪のバラ。さながら、冬葵のメタファーといった印象を受ける。


バラは多くの人達に愛されている花の1つだ。数多くの品種が存在する。愛を象徴する花としても知られている。花言葉は以下の通り。


バラの花言葉
  • 情熱
  • あなたしかいない(1本の時の花言葉)
  • 一目ぼれ(1本の時の花言葉)
  • 清純(白いバラ)
  • 決して滅びることのない永遠の愛(黒いバラ)

色や本数によって、バラの花言葉が変わる。冬葵・瑛莉・妃咲に共通しているのは「あなたしかいない」という花言葉だろうか。


作画を見た感じ、瑛莉と妃咲が手にしているのは白いバラ。冬葵は赤もしくは黒いバラなのかなと。黒いバラなら、冬葵の瑛莉に対する気持ちがよりダイレクトに伝わってくるような気がした。


冬葵の瑛莉に対する愛は決して滅びることはない…


バラを愛撫する瑛莉と妃咲を見れば、2人とも冬葵のことを大切に想っていることが分かる。


バラを抱きかかえて眠る冬葵はさながら童話に出てくる眠り姫といった感じ。いばら姫の方がしっくりくるかな。


ちなみに、バラの本数に比例して、花言葉に重みが増す。


伊野

『この恋を星には願わない』3巻における冬葵・瑛莉・妃咲・京の複雑な四角関係は誰も手出しできなっ…


INTRUDER ALERT!


この複雑な四角関係に待ったをかけたのは京に想いを寄せる伊野。伊野の存在が物語をさらに複雑なものにしていく。さながら愛する人を虎視眈々と狙う山猫といったところか。


伊野にとって、瑛莉は疎ましい人間なのだろう。京はひたむきなのにかかわらず、瑛莉は違う方向を向いている。それが分かっているからこそ、良い印象を抱かない。瑛莉の演技を評価している時の伊野はつまらなさそうだった。


伊野の放ったとんでもない爆弾は話をさらにややこしくしていたのは確かだ。


ここぞというタイミングを狙う伊野は魔性の女やわ。可愛い顔して、恐ろしや。さらなる一手がこの続きはどうなるんだという興味をそそらせる。


台本に込められたメッセージ

冬葵達が撮影していた映画は一見美しいものだけど、冬葵が自分の気持ちを瑛莉のセリフに反映させるところがヤバい…


映画のストーリーを見る限り、冬葵達の状況を彷彿させる…


作中では、冬葵が考えたセリフを瑛莉が発しているはずなのに、冬葵が瑛莉に問いかけているかのようだ。


冬葵から「もう二度と会いたくない」とか言われたら、確実に精神が崩壊しそう。瑛莉。


瑛莉のことがずっとずっと好きだったからこそ、出てくるセリフの数々は破壊力抜群過ぎる…


妃咲は冬葵が演じる可能性もあったと言っていたけど、冬葵が自分で考えたセリフを発して欲しかったな。


瑛莉が冬葵のセリフを発し、自己嫌悪に陥るのをそれはそれで…


瑛莉は自分のことを言われていると思いながら演じていたのだろうか。京と付き合っている瑛莉を皮肉ってる感じが。


瑛莉が迫真の演技を行う描写は気合入っていて、『この恋を星には願わない』3巻における目玉の1つだと思う。


朝顔

『この恋を星には願わない』3巻に描かれていた青い朝顔。『この恋を星には願わない』のカラーページには、何かしらの花が描かれている。朝顔の花言葉は以下の通りだ。


朝顔の花言葉
  • 愛情の絆
  • 明日も爽やかに
  • 儚い恋(青い朝顔の花言葉)
  • 固い絆(白い朝顔の花言葉)
  • 安らぎ(ピンクの朝顔の花言葉)

ツルをしっかりと巻き付けるその特性から「愛情の絆」という花言葉がある。バラ同様、朝顔も色によって花言葉が変わる。


冬葵には、瑛莉が絡みついているのかなと。瑛莉には、冬葵が絡みついている。15話までにおける冬葵と瑛莉の関係性は「儚い恋」といったところか。うかつな行動が1つでもあれば、冬葵と瑛莉のどちらかが傷つくことに。


再三触れているけど、ひと夏の儚い恋を描いた『君と綴るうたかた』においても世界観を作り上げるために朝顔が描かれていた。


朝顔といえば、千利休が豊臣秀吉のために茶室にたった1輪の美しい朝顔を飾った話でも有名だ。数ある朝顔の中からたった1輪の美しい朝顔を見つける姿は冬葵と瑛莉に通ずるものがありそう。


最後に

冬葵達の暑い暑い夏が描かれた『この恋を星には願わない』3巻。冬葵達の関係性はより複雑なものに。1つ1つの見せ場が見ごたえ十分だった。


瑛莉と妃咲のバチバチッとしたやり取りは見ていて、ハラハラする。だけど、心の中で「いいぞ!もっとやれ!!」っていう考えも湧き出てくる。


いくつもの好きを1つの物語に落とし込み、絶妙なバランスで描かれているのに驚かされますね。



百合ナビの第6回百合漫画総選挙で3位を獲得するのも納得。今後の動向に期待したいなと感じさせる。物語の構成・心理描写・キャラクターの個性づけ・好きを表現する方法・言葉選びのセンスなど、よく考えられている。


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百合展2025に参加したことを機に、さらなる読者が増えたのかなと感じなくもない。


百合展2025を機に、読み始めたけど、買って良かったと心から思う。パーフェクトにやられました。


話をおさらいする上で参考になれば幸い。まだ読んでいない方はこれを機に『この恋を星には願わない』を読んでみてください。


参考資料

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【書籍】

・『この恋を星には願わない』3巻

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【Webサイト】

・百合ナビ 第6回 百合漫画総選挙

https://yurinavi.com/yurimanga-sosenkyo-6/


・百合展2025開催概要

https://yuriten.store/pages/event-announcement-2025


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