『あさぎ色のサウダージ』16話を読んでいると、思うことがある。
まるで、サクタロー先生を見ているようだと。
ずっとずっと前から、サクタロー先生を見ているような感じを抱いていたような。コミティアの様子が描かれた10話の時には、少なくともこの作品はサクタロー先生そのものだと感じる決め手になっていた。コミティアで初めてお会いした時のことを思い出してしまうからだ。
作品と作者は切り離して考えろ的な言葉を耳にするけど、『あさぎ色のサウダージ』に関しては無理。切り離して考えるなんてできない。サクタロー先生の経験・趣向が色濃く反映されている。
『あさぎ色のサウダージ』16話は、RADWHIPSの『絶体絶命』に収録されている「ものもらい」が下敷きになっているのだろう。「ものもらい」の歌詞をみると、蓮が自分自身に悩んでいる姿・蓮とまつりが出会ったことを彷彿させる。蓮が銭湯から飛び出した後、蓮とまつりが一緒になった様子も。
ものもらいとは、瞼の縁・内側にできるものだ。痛みなどを伴う。見えにくさを感じる場合もある。蓮自身、自分が何を求めているか分からなくなるぐらいに視野が狭窄していたのかもしれない。
追いかけてくる現実に負けた。まさしく、絶体絶命。
4話に描かれていたCDのジャケットたちは、蓮の積み上げてきたものであり、サクタロー先生が積み上げてきたものである。でないと、あそこまで細かく描ける訳が無い。ウォークマンは自分の好きな曲を詰め込むことができる。それすなわち、自分にとって居心地の良い世界を創り上げるということ。ある意味、その人にとって宝箱のようなものなのかもしれない。
ウォークマンにイヤホンをつなげ、好きな音楽を聴き続ける間は、現実と隔絶された世界ににげこむことができるだろう。だけど、それは迫りくる現実から目を背けているようなものだと思う。ウォークマンで音楽が聴けない以上、蓮は目の前の現実と戦い続けなければならない。
生きるということは、現実と戦い続けることに他ならないのだから。理不尽がいくら降りかかろうとしてもだ。
まつりがいることで、蓮は立ち上がり、現実と立ち向かえるようになった。このあたりの描写も「ものもらい」の歌詞を感じなくもない。サクタロー先生にしか、描けない話だと思う。作品と作者を切り離して考えてはいけない作品だ。
男の子のもの云々も、YouTubeやX上におけるサクタロー先生の発言を思い出した。スーパー戦隊のおもちゃの写真を投稿していた記憶が。リバイバルした物だったので、1万円を超える代物だったはず。少なくとも、数千円で買えるものではなかった。
こよみの祖父が送った衝撃的なメッセージに困惑した。こよみ、一体どこに行ったんだ???
こよみの祖父が送ったメッセージは、誤字だらけ。メッセージから、こよみの祖父が困惑しているのが分かる。こよみが向かった先は、蓮とまつりのアパート。まつりと一緒にいることを、こよみは選んだ。まつりと再会したことにより、こよみの中でまつりと一緒にいたいという感情が強くなったのかもしれない。
まつりと別れる時のこよみの叫びは、胸を締め付けられる。大人たちの過ちによって、辛い状況に置かれたこよみは一番の被害者だ。まつりたちの過ちを見た時、こよみが一番可哀想だと感じた。5話の時、こよみが1人で買い物に行ったのも、1人でまつりの下に行けるということを示すためじゃ。
新桐生駅から鐘ヶ淵駅まで行くお金があるのか疑問だけど。仮にあったとしても、降りる駅ないし乗り換える駅を間違える可能性も。
『クレヨンしんちゃん』に登場する野原しんのすけも、映画で両親を救出するために春日部から敵のいる桐生市まで電車とヒッチハイクで行ったけど。サクタロー先生が『クレヨンしんちゃん』に影響を受けているかどうか分からないけど、『クレヨンしんちゃん』の映画4作目『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』のテイストが。両親を救出するため、しんちゃんが単身、敵の本拠地まで乗り込む姿は頼もしさを感じさせる。
そんなしんちゃんのような姿をこよみで見られるのかどうか気になるところ。群馬から東京まで行くという行動は、こよみの成長・頼もしさ・危なかっしさを感じさせるのではないだろうか。
他にも、母親のいる病院へトウモコロシを届けに行った『となりのトトロ』のメイとか。こよみは蓮とまつりからアポロチョコを受け取っていたけど、それをお守り代わりに東京へ向かっているんじゃ…
子供の一人旅は、子供の成長・危ない一面・家族に会いたい気持ちなどを表現するのにピッタリな演出だ。日本テレビで放送されている『はじめてのおつかい』しかり、『高校生クイズ』しかり。『高校生クイズ』は一人旅とはいえないけど、高校生が見知らぬ場所・見知らぬ人との出会いなどを通して、成長していく様子・青春などを感じ取ることができる。
『あさぎ色のサウダージ』16話は、まつりが蓮を救い上げる様子が描かれた回だった。サクタロー先生の経験・趣向・こだわりなど、1人の人間のパーソナリティが色濃く反映された作品だと、私は解釈している。
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