【感想・考察】『私の推しは悪役令嬢。』56話におけるクレアとリリィの葛藤・扉絵について


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『私の推しは悪役令嬢。』56話の感想について紹介することに。


主に以下の内容に触れていきます。


  • 革命政府と臨時政府の間に立つクレア
  • サーラスは国を束ねる存在にふさわしいのか
  • ミシャとユーの支援
  • 背中合わせのレイとクレアが描かれた扉絵
  • コミカライズ版完結のお知らせについて思うこと

もくじ

『私の推しは悪役令嬢。』56話の基本情報・内容

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タイトル『私の推しは悪役令嬢。』56話
サブタイトル利害調整
漫画青乃下(@aonoesu)
原作いのり。(@inori_ILTV)
キャラクター原案花ヶ田(@Lv870)
TVアニメ公式Twitter@wataoshi_anime
掲載誌コミック百合姫2025年12月号
出版社一迅社
編集部のTwitterアカウント@yh_magazine
発売日2025年10月18日
ISBN4910137391253
サイズB5

あらすじ

革命政府と臨時政府を相手に対話するレイとクレア。しかし、事態は思うように進まず。日に日に勢いを増すデモ。暴徒化した民衆の一人が国の兵士に石を投げるほどに不満が増していた。クレアはそれを黙って見ていることしかできず…はたして、バウアー王国に平和が訪れるのか。


物語の核
  • 革命政府と臨時政府の間に立たされるクレア
  • 権力の頂点を虎視眈々と狙うサーラス
  • レイとクレアを助けるミシャとユー

見ているだけしかできないクレア

馬車の窓越しから暴徒と化したデモを見ていることしかできないクレアを見ていると、心が締め付けられるな…


危機的状況に立たされている人間を助けたいけど、何もできない・見ていることしかできないという無力感がクレアに襲い掛かっていたのかなと。バウアー王国の危機を乗り越えるためには、今は耐え忍ぶ時。


悲劇的な運命なんて握りつぶす・大丈夫だとか前向きな言葉をレイが言っていたけど、すべてがクレアにとっていい方向に向かうというわけではないのを分かっているわけで。あくまで、レイがやろうとしているのは、クレアが悪役令嬢として死を迎えるのを回避することだ。


正直、正義の味方かと言われたら、そうではない。あくまで、愛する人を救うために最善を尽くす一人の人間なのだ。正義感が溢れているとしたら、臨時政府軍の兵士とデモを仲裁するだろう。


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暴徒と化したデモを見ていると、『わた推し』16話で描かれていた中庭事件を思い出したな。ユーに仕えていたディードが貴族に対する不満を爆発させたマットに深手を負わせた事件。デモの一人が臨時政府軍の兵士に石を投げつけていたけど、もし兜を被っていなかったら一体どうなっていたことか。当たりどころが悪くて、意識不明になりました。それで、その石を投げた平民は治療費とか賠償できるのか。多分、できないだろう。


中庭事件の時、マットがディードに深手を負わせていたとしたら、家族もろとも潰されていたかもしれない。


罵詈雑言に耐えている兵士の表情が胸を抉る。


政府に不満がある・言いたいことがあるのは別に良いよ。すべての政策に満足している人もいれば、そうでない人もいるだろうし。だけど、無抵抗だからって、石を頭に投げつけて良い理由にはならないだろと。もし、兵士が投げつけられた石で命を落としたとしたら、石を投げた平民は国を豊かにする英雄なんかじゃなく、ただの人殺しだ。兵士にも家族や友人がいる。


兵士に石が投げつけられたのが、クレアが動いたきっかけ。中庭事件で起きた悲劇を繰り返したくないという想いもあったのだろう。


平民には手出しできない・無抵抗だろうといって、ケガを負わせるようなことをするのは、断じて許されない。どのような理由があろうとも。SNS上で、著名人のアカウントに罵詈雑言を匿名で言うようなものだ。ハンドルネームだから本名やどこに住んでいるのかなどがバレない、周囲の人間に大きな影響を与えることが癖になる、訴えられないだろうといった理由で精神的苦痛を与えるといった場面を何度も見る。


石を投げても、誰が投げたかバレないとでも思っていたのか。棒などを持った平民が兵士に強く当たっているのに煽られた結果、石を投げるといった過激な行動に出たのかもしれない。生活が苦しくて、政府や貴族に不満をぶつけたくなるのも分からなくはないけど。


仮にクレアが動いても、デモの人数が多すぎる。クレアだけでは対処しきれない可能性が極めて高い気がする。信頼を失うだけではなく、深手を負う可能性があることも、レイは加味していたのだろう。


ラストに描かれていたレイの複雑な表情は、クレアを果たして死の運命から回避させることができるだろうかといった不安の表れなのかなと。後、絶対に大丈夫とは言い切れない後ろめたさも感じていたのかもしれない。


レイ自身、自分の無力さを最も感じていたと思う。世界の行く末を知っていても、できないことがある。全知全能の存在といったわけではないことが、『わた推し』56話から感じ取ることができる。


クレアとドルの対立

クレアとドルの対立も見どころの一つ。民あっての貴族を主張するクレアと貴族あっての民を主張するドルがぶつかり合った結果、レイとクレアは絶望感を感じていたと思う。貴族あっての民だとドルが主張した後、影を落としたレイとクレアを描くことで、絶望感やどうにもならない状態といったものが表現されていた気がする。


民と貴族は持ちつ持たれつ。セインと接したことで、クレアは民の大切さを学んだ。レーネやミシャ、レイの両親など、多くの人たちに支えられていたからこそ、民あっての貴族という考えを持つようになった。


いろいろな人たちとの日々が無かったら、クレアはドルの前に立つことができなかったのではないだろうか。クレアが拳を握るシーンから、クレアがドルに立ち向かう覚悟が感じられた。


サーラスは国のトップにふさわしいのか

サーラスは大義があるって言っていたけど、どの口が言っているんだ?ってツッコミどころが…


自分の娘を実験材料にしたばかりか自分の息子すら利用しようとした腐れ外道が。どんな顔で大義とか国民主権にするとか主張しているんだ?


サーラスが国のトップにふさわしいかどうか。


結論、ふさわしくない。


権力のトップに立ちたいばかりか敵国であるナー帝国と蜜月関係にあるとか。国民をいつ裏切ってもおかしくない。ナー帝国がバウアー王国の領地の一部を自分のものにする方向に向かう可能性だって十分考えられる。サーラスだけでナー帝国と渡り合えるのか。それが疑問だ。


リリィがいるからといって、ナー帝国と対等に渡り合える確実な保証があるわけでは。


国民を実験材料にしかねないところも、サーラスを国のトップにして大丈夫なのかどうか疑問に感じる点だ。ナー帝国も支配しようとするのなら、兵士にした国民をナー帝国に仕向けることもゼロではない気がした。


サーラスは国を豊かにするために一体どのような政策を行うのか分からないという点も、トップにふさわしいかどうか疑問に感じる。食糧問題・貧富の差・医療の問題・教育など、考えないといけないことが数多く存在する。


アーラの弟・アーヴァインもサーラスが国のトップにふさわしくないと考えているようだ。リリィも「あんなんでも父親」とセインに言っていたことから、サーラスが国のトップにふさわしくないと感じているのだろう。ろくでもない人間なのは分かっているけど、肉親だから従っているわけで。


国民の利ではなく、自分の利のために動いている。


『国富論』の神の見えざる手のように、自分の利で動いたことが巡り巡って他者の利につながる場合もある。ただ、サーラスのやろうとしていることは、国民を犠牲にしてでも自分が助かろうとすることではないかと勘繰ってしまう。


発言はもちろん、現在やっていること・過去にやっていることを加味した上で、サーラスを支持できるかどうか判断できるわけで。向こう見ずな配給・人間をモルモットのように扱う・敵対国と蜜月関係といったことを踏まえると、支持するのが難しい気がする。


サーラスが国のトップに立つよりも、ロッドやセインに国を動かしてほしいと思う。セインが仮に国のトップに立った場合、サーラスが口を出さない方向で。ドルを支え続けてきたとか言っても、やかましいという気持ちしか沸かない。摂政みたいな役職を作って、主導権を握られたらたまったものではない。


リリィの葛藤

臨時政府の下へ向かうレイとクレアをリリィが見送っていたけど、どのような表情を浮かべているか詳しく描かれていなかった。ただ言えることは、複雑な思いを抱いていたということ。気にかけていなかったら、窓から見送るなんて真似はしない。リリィとサーラスを止めてくれるだろうという期待もあったのだろう。サーラスのやろうとしていることが間違いだということを分かっているから。


リリィのもう一つの人格も本来のリリィの人格と同じ時を過ごしていた。レイに対する想いも共有されていたのではないかなと、私は解釈している。人格が二つに分けられたといっても、本来は一つの人格だ。レイに対し、同じ想いを抱いていてもおかしくない。だからこそ、レイがリリィのアプローチを避けようとした際にもう一つの人格が出てきたわけで。


リリィのもう一つの人格は、本来のリリィの人格のことを大切に想っているのだろう。


本来のリリィの人格のことを考えると、レイやクレアと戦うのは忍びないと。レイやクレアの命を奪った場合、本来のリリィの人格を悲しませることになるのだから。


クレアが革命政府と臨時政府の間に板挟みになっているのと同様に、リリィも父親とレイ達の間に板挟みになっている。そういったことを踏まえると、クレアとリリィはよく似た境遇に置かれているなと感じた。


リリィがアーヴァインにサーラスとは違う人間だと言われた際に驚いていたのが印象的だった。一人の人間として見られたことに驚いたのかもしれない。


ミシャとユーの支援

ミシャとユーの再登場。ユーの恩返しの時が訪れたといったところか。大切な人たちが大きく関わっている時だからこそ、ユーは無視できないわけで。


シスター服姿のユーが可愛い。ユーがメイド服姿を嬉しそうに着ていたのを思い出した。


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ミシャのシスター服姿もよく似合う。ユーと一緒にいられたのが本当に嬉しいんだなと。般若の面を被るミシャが印象的だった。マットの余計な一言がミシャを修羅に…


ミシャ、ユーを誰にも取られたくないわけで。


マットもユーが女の子になったと知って、マインドクラッシュしていたな。脳が破壊されるような描写でマットの感情を表現するなど、感情表現の幅の広さも『わた推し』を面白くする要素だ。


アニメ版7話を再視聴すると、ミシャがユーに恋をしているのがよく分かる。メイド服姿のユーをべた褒めだったし。


ミシャとユーがレイ達を支援するのは、以前の恩とか抜きに納得。リリィが精霊教会にいたことを考えると、臨時政府側は精霊教会を脅威とみなす可能性もゼロではないような。そうなった場合、ミシャやユーにも危険が及ぶ可能性も出てきそうだ。


精霊教会や自分自身の身の安全も踏まえた上で、ユーはレイとクレアに協力する必要があると判断した。もちろん、友人を助けたいという気持ちもある。


扉絵の考察

『わた推し』56話の扉絵は、レイがクレアを救うために手を伸ばしているような構図だった。


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『わた推し』11巻と別角度で見た構図といった言葉をSNS上で目にする。


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『わた推し』11巻の裏を見てみると、ユリの花に囲まれたクレアの姿が。キリスト教の聖母マリアをイメージさせる。


レイの周囲に描かれているのは黒い百合。黒い百合の花言葉は「恋」「呪い」だ。クレアに対する恋心と同時に選択を一つ間違うとクレアを失ってしまうかもしれない呪いを彷彿させる。『わた推し』11巻の表紙に描かれている黒い百合に紫色が用いられていることから、呪いや毒といったイメージがより強調されているような。ユリ科の植物のなかには、毒性の強いものがある。


クレアが悪役令嬢として処刑されてしまうかもしれないという呪いあるいは毒。


ユリは繁殖力が強い植物の一つだ。植え方などを誤ると、ユリが繁殖しすぎてしまう可能性がある。毒性の強いユリ科の植物が存在する点・繁殖力の強さで庭などを侵食する可能性がある点を踏まえると、黒い百合はレイを阻む革命政府のメタファーといったところか。クレアの生き死にを左右するリリィとサーラスは、レイにとって毒といえるかもしれない。


ちなみに、ユリは情熱と繁殖力を象徴する植物とされているとか。情熱という面はレイのクレアに対する恋心。繁殖力はレイとクレアの繁栄・勢いづく革命政府など、さまざまな捉え方ができそうだ。


クレアの周囲には、白いユリが咲き誇っていた。『わた推し』11巻の裏に描かれているクレアの周囲にも白いユリが描かれているだけではなく、クレアの手にも白いユリの花が。


白いユリの花言葉は「純潔」「威厳」だ。クレアの純粋な一面や誇り高い一面を白いユリの花言葉で表していると思う。


ユリの花はフランス語でフルール・ド・リスと訳される。フランスの英雄でもあるジャンヌ・ダルクは、戦場にユリが刻まれた旗を持って行ったとか。クレアはバウアー王国におけるジャンヌ・ダルクと捉えることができるかもしれない。『わた推し』56話の扉絵や11巻の裏に描かれているクレアは、ジャンヌ・ダルクや聖母マリア、磔にされたキリストのようなポジションにあるような気がする。


国民のために戦い続けたクレアが磔にされ、最終的に火刑に処されるかもしれないといった運命を避けるため、レイは黒いユリが咲き誇る地獄で抗い続ける。


ユリは死を象徴する側面を持つ。ユリの花と聞いて、結婚式をイメージする方も多いのではないだろうか。葬式においても、ユリの花が用いられることがある。その香りで死の香りを隠す役割を持つ。


ユリはエデンの園を去るイヴの涙から生じたとされる話もあることから、扉絵などに描かれているユリはレイと別れるかもしれないクレアの涙と捉えることもできそうだ。


ギリシャ神話に登場するヘラ(ローマ神話のユノー)の母乳からユリの花が誕生したという逸話がある。ヘラはゼウス(ローマ神話)の妻といわれており、嫉妬深い性格の持ち主だ。その嫉妬深さはクレアも持ち合わせているような。『デジタルモンスター』に登場するユノモンというデジモンは、ギリシャ神話のヘラをモチーフにしている。ヒステリックモードなる姿がある。ヘラの嫉妬深い性格が元になっているのだろう。


ちなみに、仏教に馴染みのある睡蓮は、英語で「water lily」と訳される。こういった部分を踏まえると、『わた推し』56話の扉絵や11巻の裏に描かれているクレアのいる場所は、あの世という考えに行き着いた。「ウォーター○○」の呼び名を持つ植物は、複数存在する。ビオトープで人気のあるウォーターヒヤシンスことホテイアオイ・特定外来生物に指定されているウォーターレタスことボタンウキクサとか。


ちなみに、蓮は英語で「lotus」。『マジック:ザ・ギャザリング』や『アクセルワールド』に馴染みがある方の多くが「lotus」と聞いて、ブラック・ロータスをイメージするかもしれない。睡蓮と蓮は『ポケットモンスター』のディグダとウミディグダの収斂進化の一例とされているが、個人的に似ても似つかないと思う。


『わた推し』56話の扉絵は愛・呪い・威厳・死など、さまざまな表情を覗かせている。


飴井涼先生の巣立ち

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青乃下先生のアシスタントを務めた飴井涼先生は、ヤングガンガンで『ランチ番長 瞳』というランチを主題にした漫画を描いている。原作は『孤独のグルメ』でお馴染みの久住昌之先生。


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主人公の瞳が並外れたセンスから美味しいランチを見つけ、堪能していく様子を描いた漫画だ。豊かな感情表現と言葉選びのセンスが光る。ガメラ!?鬼太郎!?と予想外の飛び道具も繰り出してくる。


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飴井先生といえば、カドコミでも『冒険者酒場の料理人』のコミカライズも担当。SNS上でバズったので、1話を読んだ・単行本を手にした方もいるかもしれない。


『ランチ番長 瞳』と『冒険者酒場の料理人』は百合ではないけど、気になる方がいる方はぜひ。


こうしてみると、飴井先生も巣立って行ったんだなと実感してしまう。寂しくもあるけど、喜ばしくもある。どうせ、漫画家の下でアシスタントを務めるなら、漫画家として巣立って欲しさが。どう言っても上からになってしまう。


飴井先生の描く食事の描写は、いつ見ても秀逸だなと感じている。


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『君と綴るうたかた』や『ロンリーガールに逆らえない』でアシスタントを務めたサクタロー先生も、コミックNewtypeで『あさぎ色のサウダージ』を連載していた。


こちらは、2人の女性の人生を丁寧に描きつつ、『となりのトトロ』や『よつばと』のような温かさを感じさせる描写が個人的に良いなと。


青乃下先生やゆあま先生、樫風先生の培ってきたものがアシスタントを務めた先生方に受け継がれ、新たな作品が産声を上げる原動力になる。百合姫の連載作を追っていくなかで、飴井先生やサクタロー先生のような方に出会うというのも楽しみの一つだったりする。とんでもなくすごい人が現れるのをずっと待ち続けている自分がここに。


コミカライズ版完結の話について思うこと

『わた推し』コミカライズ版が原作第1部で完結という告知を目にした。正直、複雑な気持ちが。何年も追っているからこそ、寂しさがですね…


売上が悪くないものの、綺麗に終わるタイミングが革命編とのことだ。第2部をコミカライズ版で見たさは正直ある。察することが全くないというわけでは。それは一体何かというのは、誰にも言わないけど。


『わた推し』コミカライズ版が完結した後が、いのり。先生の勝負どころな気がする。


青乃下先生は次、どの先生とタッグを組むのか。いのり。先生と再びタッグを組む日が来たら良いなと思ったりも。


『わた推し』を通して、いろいろな方とやり取りするきっかけになったし、文フリに行く動機にもなった。寂しさを感じつつも、最終話まで駆け抜けたいですね。


参考資料

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・『私の推しは悪役令嬢。-Revolution-』3巻

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・『私の推しは悪役令嬢。』4巻

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