『知見寺家の蔵には運命が眠っている』の感想を紹介することに。
『知見寺家の蔵には運命が眠っている』の基本情報・内容
| タイトル | 『知見寺家の蔵には運命が眠っている』 |
|---|---|
| 原作 | Ru(@LamourestbleuRu) |
| サークル名 | Lamor est Blue |
| イベント | 文学フリマ大阪13 |
| 発売日 | 2025年9月14日 |
喪中アルバイトをしている少女・雨宮藤乃は、仕事で訪れた屋敷で暮らす知見寺蘭から祖父の残した日記を探してほしいと依頼されることに。日記を探す日々を過ごすうち、藤乃は蘭に惹かれていく。
- 運命に翻弄される人間たち
- 占い
- 藤の花
運命に悩まされる喪服少女と哲学を貪欲に学ぶ元ヤンの女性との百合を題材にした小説。「運命」「占い」「藤の花」のキーワードを活かしている点が特徴に挙げられる。
作者は『夏とレモンとオーバーレイ』を書いたRu先生。コミック百合姫において、コミカライズ版が短期連載された。コミカライズ版を担当したのは、『一度だけでも、後悔してます。』の作者・宮原都先生。
文学フリマ大阪13当日、Ru先生の隣のスペースは、『私の推しは悪役令嬢。』の原作者であるいのり。先生のスペースでした。
運命を乗り越えろ
『知見寺家の蔵には運命が眠っている』における面白さの核は一体何かと聞かれたら、自分自身の運命に悩みつつも、藤乃と蘭が最終的に自分自身の想いに従う姿だと答える。
『知見寺家の蔵には運命が眠っている』はタイトルにもあるように、「運命」をテーマに藤乃と蘭の物語が展開されていく。
運命とは、将来の成り行き・人間の意志を通り越して人に幸・不幸を与える力のこと。
個人的には、運命は因果の積み重ねによって起きた結果・選択の連続によって生じた未来ではないかと考えている。人間は常に選択を求められ続けている。二択もあれば、三択・四択といった具合に運命・未来がいくつも枝分かれしていることも。いくつも因果が巡り巡って、藤乃と蘭が巡り会ったと。
それぞれの家の事情に翻弄され、運命について葛藤する藤乃と蘭がどのように距離を縮めていくかが話の見どころではないだろうか。蘭の場合、祖父の運命に大きく関わっていたことに悩まされていたような印象を。
自分の選択一つで誰かの運命を変えることに対する葛藤について丁寧に描かれていたのが印象に残った。別の選択を提示することで、運命を大きく変えられたかもしれないといった後悔が当事者に重くのしかかることもある。
過去の後悔を乗り越え、同じ過ちを繰り返すまいと藤乃のために自分だけの運命を提示する蘭がカッコよく映る。自分だけの運命や未来を切り開く姿を見ていると、自分だってカッコよくなれるのかなと思わなくも。
誰かの言う通りに綺麗に整備された道を歩き、誰かにゴマを擦り続けている教科書通りの優等生の人生なんてクソつまんねぇ!
時には、入り組んだ裏路地や整備されていないオフロード、画面外なんかを飛び越えてまだ見ぬ場所を切り開きたいんだ!と考えることが何度もある。『ドラゴンクエストシリーズ』で船やどんなドアも開けられるカギを手にした時が一番興奮する。順番とか気にせず、いろいろな所を縦横無尽に駆け巡れる時が最高に楽しい。
自分自身の運命に葛藤し続けた藤乃と運命の導き手になった蘭の物語に待ち受けるラストにカタルシスを…
迷える人々を導く占い
作品の骨格を担う「占い」。作品を読み進める上で、占いも無視できない要素だと感じた。
占いは他人の運勢や未来などを予言することだ。タロットカードやトランプ、振り子、ウィジャ盤、手相など、さまざまな方法で占いが行われる。日本だと、こっくりさんとかも有名だったりする。
占いは豊作を願ったり、天候や太陽・月の位置を知るために行われる場合も。雲などの変化から天気を読み解き、どのように動くかなどを決める指針になることを踏まえたら、占いは侮れない面を持ち合わせている。鉱脈などの自然を読み解くダウジングなんかも占いと通ずる部分が。
調べてみると、国を動かす政治家や経営者も占いを頼りにしている側面があるとか。それを考えると、蘭は多くの人間の運命を良い方向に導くこともあれば、大きく狂わせる可能性も持ち合わせていたことを察することができる。
占いを題材にした作品といえば、まんがタイムきららミラク・まんがタイムきららで連載された『うらら迷路帖』や河森正治監督が携わった『天空のエスカフローネ』などが頭に浮かぶ。『ハンター×ハンター』に登場するネオンの占いも物語に大きく関わっていたりしますね。
作中で蘭たちが行っていた占いを藤乃は非科学的と言っていたけど、果たしてそうだと言い切れるのか疑問。太陽や月の位置などからさまざまな出来事を読み解くことを考えたら、科学の要素が完全にゼロとは言い切れない気もした。
木・火・土・金・水の五行思想に基づいた風水なんかも住居を建てる際に取り入れられたりする。ちなみに、五行思想に似たものに、錬金術の四元素がある。四元素は火・水・空気・土だ。
占いにおいて、コールド・リーディングとホット・リーディングと呼ばれるものが用いられたりする。コールド・リーディングとは、相手の表情・話し方・呼吸の仕方・行動などから相手のことを言い当てる手法。ホット・リーディングは相手の情報を十分収集し、相手の信頼を得る手法だ。
蘭は藤乃の表情や話し方、行動などから一体どのような人間なのかを感じ取り、藤乃の実家が一体どのようなものなのかを知った上で、運命に逆らうことがより良い方向だと占ったと言っても過言ではないような気が。占いを行う上で、他者を知り、信頼関係を築くことが重要だと藤乃と蘭のやり取りから実感する。いくら的確なアドバイスができたとしても、信頼関係が不十分だと、相手は占いの結果を受け入れることができない。
コールド・リーディングはマジックなんかでも耳にする言葉ですね。相手の表情や話し方などからカードの位置を当てたり。医療現場においても、コールド・リーディングを応用することができそうだ。
蘭の祖父が顧客の情報を管理していたのも、ホット・リーディングのためなのかなと。顧客の情報は何も名前・生年月日・血液型・星座だけではない。家系図やその人に関する年表なんかも管理していたと思う。
家系図からその人に関する因果を読み解き、占っていくのだろう。六星占術で有名だった細木数子氏は、『幸せって何だっけ ~カズカズの宝話~』で麒麟の田村氏に祖母の実家が絶家になっていることを指摘していたし。
細木数子氏がメインの番組だった『ズバリ言うわよ!』において、ゲストに関する年表を紹介し、そこからいろいろなことを読み解いていたように。この時期は大殺界といった指摘もあった。
藤乃と蘭の会話を聞く限り、占いを行う際は相手のことだけではなく、相手が関わっている世界の動きなどにも目を向けなければならないような気がした。因果の法則じゃないけど、この業界は調子が良い・ライバルが真似をし出したから売り出している商品のブームは長くないとか。まるで、風が吹けば桶屋が儲かる的な。いろいろな事象から物事を読み解き、蘭の祖父は相手を占っていったのかなと。
藤の花に込められたもの
作中で取り上げられていた藤の花。藤はマメ科の植物だ。花言葉は「優しさ」「恋に酔う」。より良い方向に占うのは、相手への優しさなのかなと思わなくもない。藤乃が蘭に恋をした様子は、恋に酔うといった感じも。蘭もまた、藤乃に対する想いを膨らませていた。藤の花が重なり合うところから「恋に酔う」という花言葉がつけられたとか。
藤は生命力が高く、豊かな香りを醸し出す一面がある。毒性が高いことでも知られている。『鬼滅の刃』では、鬼に対する魔除けとして描かれていましたね。あらゆる厄災から身を守るため、知見寺家のお守りには淡紫が用いられていたのかなと。
ノボリフジの呼び名で知られているルピナスも、毒性の強いマメ科の植物だ。藤が上から下へ垂れ下がって花を咲かせるのに対し、ルピナスは下から上に向かって、花を咲かせる。
狼を意味するラテン語のlupus(ルプス)がルピナスの語源とか。『キミが吠えるための歌を、』に登場する晴と優雨のユニット名にルピナスが用いられている。
蘭の祖父が藤乃に藤をイメージさせる淡紫のお守りを託したのは、蘭を家の運命から解放させるためではないかと、私は解釈した。お守りは本来、蘭が継ぐはずだったのに、赤の他人だった藤乃に託されることに。そのなかに入っていたものは、ある意味毒だったと思う。それも、多くの人間を揺らがすような。
蘭の祖父が孫にお守りを託さなかったのは、優しさなのかもしれない。
最後に
『知見寺家の蔵には運命が眠っている』は蘭の祖父は藤乃に蘭と会うように仕向けたのか・お守りがどうして蘭に託されなかったのかなど、いろいろ考えたりするのが楽しい作品だと思う。
ラストの描写はカタルシスを感じさせる。ここぞという時に見せる蘭のカッコよさや蘭をお世話する藤乃の可愛い面など、光る部分がいくつも存在する。文フリでは、いろいろ話もできて楽しかったな。Ru先生の参加するイベントに行けたら、『妄想代理人』の話でもするか。
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